サッカーシンポジウム『ヨーロッパサッカーと日本』

土曜日に上智大学の中央図書館で開催されたサッカーシンポジウム『ヨーロッパサッカーと日本』に行ってきました。

上智大学ヨーロッパ研究所主催のシンポジウムで、第一部は西部謙司さん「ヨーロッパと日本のサッカー観の相違」、大平陽一さん「『ヨーロッパ』サッカーの東漸―どこまでが『ヨーロッパ』なのか?」、市之瀬敦さん「ダイヤモンドサッカーからスポーツTVまで」。
第二部がリチャード・ケルナーさん「サッカー観戦の愉しみ」、鈴木守さん「文化としてのサッカー」、宇都宮徹壱さん「ヨーロッパの島のサッカー」。そしてパネルディスカッションという構成になっていました。

西部さんや、市之瀬さん、宇都宮さんといった方々はサッカーファンにもお馴染みなので、会場はサッカー好きな人や学生で超満員になりました。

どの話も大変面白かったのですが、覚えている範囲でちょっとだけまとめてみます。
まず西部さん。いつものように非常にわかりやすく明快にお話をされていたのですが、それ、ヨーロッパっていうか南米の話だよね?と思うこともいくつかありました(笑)

まず日本のサッカー選手の特性というか、ヨーロッパのスカウトがどこを見るかという話。
ヨーロッパのスカウトはまず天性のモノ、つまりトレーニングによって身につかないモノをその選手が持っているかという点を見るそうです。
5つのパート(GK、CB、サイド、プレーメイカー、FW)に分けてみます。それぞれ、CBであれば1 パワー、2 高さ、3 守備力を見ます。つまりサイズの方が守備力よりポイントが高いのです。
サイド(サイドバックも含む)であればスピード、プレーメイカーであればアイデア、FWは得点力です。ちなみに得点力の高い子は子供の頃から不思議とたくさんゴールをしているそうです。
吉田や清武というCBやプレーメイカー的存在も確かにいますが、西部さんいわく、やはり今海外で活躍できている選手はサイドの選手が多く、つまりサイドの選手の特性が海外で求められているということになります。もちろんそれだけを指して日本の選手全般を語ることはできませんが、傾向として。

次にコリンチャンスとチェルシーの試合を取り上げて、サッカーにおける大局観についてお話をされていました。
西部さんによると、サッカーには4つの局面があり、それは1 ポゼッション、2 カウンター、 3 対ポゼッションの守り、4 対カウンターの守りだそうです。
つまり90分において、この局面の今どこにいるのか、コリンチャンスはそれをきちんと理解し、選手全員が同じように対処するということが出来ていたということを言っていました。それがサッカーにおける大局観。

それに関連してもうひとつ。
昨年行われた日本対ブラジルの試合は記憶にも新しいところですが、西部さんが柏のネルシーニョ監督にインタビューする機会があり、ブラジルがきっちりと守りを固めたときに、どうやって崩して点をとればいいのですか?と聞いたところ、ネルシーニョの答えは、

『最初のチャンスでとれ』

だったそうです(笑)
補足すると、実は守備面における規律というのは攻撃面における規律よりも勝っていて、時間をかければかけるほど守備というのは固くなるそうなのです。だから守りの規律が高まってどんどん点が取りにくくなる時間よりも『最初のチャンスでとれ』というのが答えなんだとか。
これも一試合の流れの中でどこに力を目一杯注ぐべきなのかということにつながってくると思います。

次の大平教授のお話も面白く、特にヨーロッパというより、東へと延び始めているヨーロッパの境界線の地域の話で、その中でチェチェン共和国とスイスのヌーシャテル・ザマックスの話がありました。
ザマックスを買収したチェチェン出身のチャガエフという富豪が、財務保証の資料を偽造したり、莫大な借金を残したりして、ザマックスは2012年にクラブライセンスをはく奪されてしまったのですが、内容はこのチームの話ではなく、チャガエフが同じように副オーナーをしているテレクという、ロシアプレミアリーグに所属するチームの話です。

テレクはチェチェン共和国のチームですが、親ロシア色の強い初代大統領アフマド・カディロフや、息子のラムザン・カディロフが長年、このチームの会長を務めていたこともあり、非常に政治的な色合いの強いチームです。
このチームのお財布係を勤めていたのが上で出てくるチャガエフであり、ルート・フリットを監督に連れて来たり、チェチェン共和国が世界選抜との親善試合を計画した時、すべての費用を負担したと言われているそうです。お話自体はこれ以上深い話にはなりませんでしたが、ロシアプレミアリーグでプレーしているといっても、実はいろんな政治的なものが潜んでいるチームのようです。
ヨーロッパサッカーといえばある意味、あこがれの対象となりがちですが、東漸(東へと境界線が進む)する”ヨーロッパ”とはいったい何なのか?というテーマでお話をされていて大変面白かったです。

市乃瀬さんはポルトガルサッカーの本などでも有名ですが、ポルトガルリーグとテレビ放送のお話。
リチャード・ケルナーさんは国際機関の職員をされているイギリス人ですが、イングランドサッカーの話を流暢な日本語で楽しく語られていました。
鈴木先生はフィレンツェで行われるカルチョ・ストーリコの話。サッカーの起源?ともイタリアでは言われているようですが、文化としてのサッカー(スポーツ)についてお話をされました。

で、最後に宇都宮さんだったのですが、PCをつないでご自身が撮影された写真をスライドショーのようにしてお話をされる予定だったのに、機材トラブルでPCが動かず。
仕方なく、順番を変えて先にパネルディスカッションと質疑応答になってしまったのですが、私は時間がなかったのでこのパネルの後に帰らなくてはならなくなってしまい、宇都宮さんのお話は聞くことができませんでしたー。くーっ、残念。

それにしても無料でこんな貴重なお話をたくさん聞くことができてすごく良かったです。
久しぶりに学生気分も味わうことができました。またこういう機会があるといいなー。

 

サッカーシンポジウム『ヨーロッパサッカーと日本』」への6件のフィードバック

  1. わ〜纏めて下さってありがとうございます!
    そして読むと益々行かなかったことを後悔w
    こんな豪華なメンバーでいろんな角度からの話を聞けて無料っていうのも凄い!

    ネルシーニョの『最初のチャンスでとれ』という話はとても面白いですね。
    相手チームを分析する時、素人の私なんかはフォーメーションや選手の力量ばかりを考えてしまうのでちょっと『ハッ!』とさせられました。

    >東漸(東へと境界線が進む)する”ヨーロッパ”とはいったい何なのか?
    ヨーロッパサッカーと言うと普段自分がみてる国のサッカー中心に物事を考えてしまいがちですけど、特に東欧の方なんかの歴史や宗教や政治が絡むと本当に様々で知らない世界ばかりだし、とても興味深いです。
    サッカーから入るとなんでも興味深く知ろう!とする気が起きますよね….と歴史の参考書みたいなのを電車で読んでる受験生っぽい子を見て思いました(笑)

  2. >cocorioさん、
    なんとかまとめてみましたー。
    ほんとはあちこちにちりばめられたエピソードが面白かったんだけど、たくさん過ぎて拾いきれず・・・。
    次回、こういう会があったら、ぜひぜひ!
     
    ネルシーニョの話、面白いでしょ。
    私も会場で聞いたときは最初は笑ったけど、やっぱりネルシーニョ、すごーいと思いました。
    シンプルだけど素晴らしい答えですよね。
     
    それにしても、あらためてヨーロッパと言っても本当に範囲が広いんだなあと思いました。
    その一方で、イングランドのサッカーの楽しみなんていう軽く楽しめる話も聞けたし、ほんとにバラエティに富んでいました。

  3. わー かめさんいたんですか!
    僕もいってました~
    ホールに5番のりくらいでしたよ(笑)

    宇都宮さんの話はフットボールの犬からフェロー諸島、マルタ、アイスランド、シチリア島を紹介されてました。
    僕は読んだことがなかったのでお話はおもしろかったです!

    個人的には大平さん市之瀬さんに会えたのに感動しました!
    フットボリスタの二人のコラムが好きだったもので。

  4. >りょーつん。
    わー、りょーつんもいらっしゃってたのね。
    宇都宮さんのお話も聞きたかったわー。
    大平さんと市之瀬さんにお会いしたのは私も感激でした!
    またこういう会があったらいってみたいですねえ。

  5. 大入りだったので、会場も大きな所でパート2やってほしいです!
    多少の入場料とられても僕は行きたいですw

  6. ですよねー。パート2があったらぜひ行きたいわ。
    西部さんのトークショーもまたじっくり聞きたいなあ。

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