ザンクト・パウリと”Viva con Agua”

ザンクト・パウリは誰もがよくご存じのとおり非常にユニークなサッカークラブで、バルセロナが言う「Més que un club」(クラブ以上の存在)というのは、個人的にはザンクト・パウリのことだよなあと常々思っています。

地域社会やボランティア活動との結びつきも深く、クラブ会員やサポ、パウリの選手たちはさまざまな社会活動に携わっています。その中の一つ、“Viva con Agua de Sankt Paul”は、清潔な飲料水の入手が困難な国にきれいな水を届けるため、やはりドイツのNPO団体であるWelthungehilfteと協力しあって慈善活動などを行っています。
またサブカルチャーや若者の音楽活動にも親和性が高く、コンサートやパーティ、ファッションショー、サッカーの試合、マラソン、展示会などさまざまな活動をして募金を集めます。

彼らのウガンダでの活動を取り上げたZDFのドキュメンタリーがとても面白かったのでご紹介します。前後編2時間の”BLU UGA: Marteria & Maeckes in Uganda”というドキュメンタリーです。
水プロジェクトについての真面目な側面だけではなく、サッカーシーンでもよく見かける壁を使ったストリートアートや、若者に人気のヒップホップの世界なども楽しめます。
また、ウガンダはスワヒリ語以外に英語が公用語なので、見ていても比較的わかりやすい(3割くらいは英語)ドキュメンタリーにもなっています。

活動の場所はウガンダ。今回このプロジェクトに参加したのは、まずはViva con Agua Sankt Pauliの創設メンバーであるMarcel EgerとMichael Fritzのふたり。Egerはかつてザンクト・パウリでプレーしていたサッカー選手です。さらにZDFからはこのドキュメンタリーを担当するReinar Maria Jilg。眼鏡をかけた陽気な人がそうです。

こちらはドイツのヒップホップスターであるMarteriaと写真家のPaul Ripke。
Marteriaは新譜の”Zum Glück in die Zukunft II”がドイツのアルバムチャート1位を獲得したほどのとても人気のあるラッパーです。

アフリカは初めてと語るミュージシャンのMaeckes。彼はViva con Aguaの活動にはすでに6年ほど参加しています。

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そしてストリートアーティストのAchtern。彼もここ数年Viva con Aguaと活動を共にしており、ドキュメンタリーの中でもスプレーを使ったストリートアートを披露してくれます。

欧州各地の70の音楽祭で、Viva con Aguaの協力者たちが10万以上のカップを集めて水資金を調達、彼らはまずイスタンブールからウガンダのエンテベに飛びます。さらにそこから8時間かけてリラというウガンダ第3の都市に到着。
翌日はさらに車で500人ほどの村へ。この村にはWelthungehilfteとViva con Aguaの力ですでに水のポンプが設置されています。

地元の人たちの歓待を受けるメンバーたち。
ポンプを設置する前までの生活と設置後の生活の様子や、水委員会の運営の仕方の話なども非常に興味深いです。近くに水をくむ場所ができる前まではかなり遠い所まで水を汲みに行かなければならず、村の人たちはその頃に比べると幸せであることを語ります。

翌日には首都のカンパラに移動し、地元のスポーツジャーナリストたちとサッカーの親善試合を行います。
このドキュメンタリーで人間的な魅力を発揮するミュージシャンのMarteriaは、もともとはハンザ・ロストック・ユースのサッカー選手。現在ドイツU-21代表監督のルベッシュが指導していたころのU-17代表にも呼ばれているほどの選手です。

試合前に真剣にポジションやゲームプランについて語り合う元サッカー選手ふたり(手前がMarteria、奥がMarcel Eger)。アフリカはだいたい戦術がひどいからとか言ってます(笑)。

一方で対戦相手のジャーナリストは自称ミヒャエル・バラックがいい味を出しています。
「私のポジションは9番、10番、7番と11番と中盤。試合?私たちの方が勝つだろう。理由1、ディシプリン。理由2、このピッチに慣れていないぶん、私たちの方が有利に決まっている」と胸を張るバラック氏は、こう見えて試合でも2ゴールを決めております。

試合は5-3でパウリ・チームの勝ち。ウガンダチームに先制されて本気になったのか、Marieriaは3ゴールをあげる大活躍。

ウガンダの旅はさらに続きます。まだ水の施設が設置がされていない村では、地元の女性に交じって水汲みを手伝います。
重い水を汲み上げ、頭で運ぶ作業にふらふらのMichael。川の水は決して清潔とはいえず、体調を崩す子供たちは自転車に乗せて10キロ離れた病院まで連れて行かなければなりません。
それでもウガンダの人たちの暖かい歓待や踊りには、なぜか見ているだけで心が晴れやかになる力があります。

再び戻ってきたカンパラでは地元ウガンダのラッパーと組んで音楽の録音やミュージックビデオの撮影。
さらにゲーテ・インスティトゥートでのライブやストリートアート。

Marteriaは上にも書いたようにロストックの元選手で、ドキュメンタリーの中でもロストックに対する愛について語っています。しかしザンクト・パウリとロストックは「神と悪魔」の関係と言われるほど犬猿の仲。
ライブではそんなMarteriaのために、Viva con Agua “Sankt Pauli”が一夜限りのViva con Agua “Hansa Rostock”に早変わり。

なんとも素敵なドキュメンタリーで、私はすっかり気に入ってしまい、ワールドカップの録画もそっちのけで3回も見てしまいました。
サッカーのシーンはもちろんのこと、スプレーでのアートや、音楽や、ファッションや、そしていろいろなことを楽しもうという精神がたっぷり詰まっているドキュメンタリーです。ウガンダのラッパーや小さな子供たちのリズム感あふれる踊りも素晴らしいです。
幸せな気分になるので、ぜひ機会があれば見ていただけると嬉しいです。
なおこのドキュメンタリーの中で撮影されているミュージックビデオはこちらです。Blue Ugandaはいまのところ日本のiTunes Storeで唯一買うことのできるMarteriaの曲です。