12 25 2016

映画『Trainer!』に見るプロサッカー監督

Published by at 2:29 AM under 2.Liga,3.Liga



「監督!」(Trainer!)というドキュメンタリー映画が2013年に公開され、ドイツで大きな話題になりました。三人のプロサッカーチームの監督を一年間追いかけ、サッカー監督とはいったいどういう職業なのか、その適性とは何か、何が正しくて何が間違っているのか、現代のドイツサッカーを取り巻く問題点は何かなど、様々なことを見る者に問いかける非常に優れたドキュメンタリーです。

メインとなる三人の監督は、当時3部だったハイデンハイムのフランク・シュミット、2部のザンクト・パウリで2年目を迎えたアンドレ・シューベルト、SCパダボーンで監督に就任したばかりのシュテファン・シュミットです。

この2012/13シーズンは結果から言うと、シューベルトは7試合、シュテファン・シュミットはシーズンの最後2試合を残し、それぞれ解任されています。フランク・シュミットのハイデンハイムは目標の昇格に一歩届かなかったものの、クラブ史上最高の5位でシーズンを終えました。

彼ら三人以外に、ドイツサッカー連盟で監督を指導する立場にあるフランク・ヴォルムートや、ザンクト・パウリでシューベルトのアシスタントコーチをしながら、ヴォルムートの元でライセンス取得に励むトーマス・メグル、さらに要所要所にミヒャエル・オエニンク、ユルゲン・クロップ、ハンス・マイヤー、アルミン・フェー、トーマス・シャーフ、ミルコ・スロムカ、ペーター・ノイルーラーといった監督たちの話がはさまれます。

中でもハイデンハイムのシュミット監督の個性がこの映画を非常にユニークなものにしています。フランク(パダボーンのシュテファン・シュミットとの混乱をさけるため名前で表記します)は、2007年にハイデンハイムの監督に就任。この年にサッカー部門が独立して、現在の1.FCハイデンハイムに名前が変わっています。

映画の中でフランク本人も言っていますが、監督になる前に4年ほど企業で働いた経験があり、部下に面と向かって仕事の評価・査定を伝えることは、会社勤めで慣れているのだそうです。性格は激しく負けず嫌い、選手が怒鳴られるシーンはかなり迫力があります。しかし一方で選手とのコミュニケーションの取り方は興味深く、チームの中心選手を集め、ピッチの上ではこういう態度をとって他の選手を導いて欲しいと議論する場面など、随所にマネージメントのうまさを感じます。

フランクに比較すると、パウリのシューベルトとパダボーンのシュテファンは、コミュニケーションの取り方に未熟な部分を残しているように見えます。さらにシューベルト、シュテファン両方の監督から指導を受けたナキという選手を挟むことで、二人の違いも際立たせる構成になっています。

サッカー監督としての仕事の進め方は、何が正しくて、何が間違っているのか。ドイツサッカー連盟のヴォルムートの発言が答えを導く手がかりとなります。それはプロサッカー監督のライセンス(Fußballlehrer)を得るための実技講習の場面でした。取得を目指す受講生たちが実際に選手を指導し、それを録画してヴォルムートが気になる点を指摘するのですが、ストレスのかかる状態での振る舞いを映像で見せられた受講生が、『少し感情的だった』と自己分析したことに対し、ヴォルムートは、『感情的であることは悪いことではない。クロップもトゥヘルも感情的だ。悪くはないんだ。そこは評価の対象ではない。映像を見せたのは、その方法で続けるか自分で決めさせるためだ』と答えます。

シューベルト、シュテファン、フランク。三人はそれぞれに監督としての仕事を天職だと感じ、情熱を持って取り組んでいます。皆が自分のやり方にコミットし、仕事をしている間は迷いなく突き進みます。ヴォルムートの言う、『その方法で続けるか自分で決める』はできているのです。ではなぜ思うような成績を残せなかったり、解任されたりするのでしょうか。

見ていると、フランクと他の二人は明らかに少し違うと感じます。シューベルトやシュテファンが、どこか自分の理想とする監督像を追っているように見えるのに対し、フランクはすべてにおいてリアリストです。あいまいな願望や希望交じりの推測はそこには存在しません。ヴォルムートの評する通り地に足がついているのです。しかしそんなフランクにも、チームが勝てずに順位を下げると危機は訪れます。フランクを救ったのは彼の能力を信頼し、後押ししてくれるゼネラル・マネージャーの存在でした。

プロサッカー監督を取り巻く環境はますます厳しくなっています。加熱するメディアの報道、クラブの重役たちの無理解、責任を逃れるスポーツディレクター。映画の中でクロップがキッカーよりもシュポルトビルトの方が売れていることを嘆きますが、事実よりもセンセーショナルであることが優先され、サッカー監督の仕事に理解の乏しいクラブ上層部がある限り、状況はますます難しいものとなっていくことは間違いないでしょう。

最後に映画に登場した人たちの近況を。
ハイデンハイムは翌シーズンには3部で優勝し昇格しています。2位はRBライプツィヒでした。ここに3位のダルムシュタットを加えた3チームは、他を寄せつけない強さだったのを覚えています。映画でも語られるように、フランクの率いるハイデンハイムは、近い将来にブンデスリーガに昇格するだろうと私も思います。

アンドレ・シューベルトはドイツサッカー連盟でユースの指導をした後、グラートバッハU23監督となりました。その後、ファヴレの後任としてボルシアをCLへ導いたものの、先日、成績不振で解任されたことは記憶に新しいところです。
シュテファン・シュミットは翌シーズンに、エネルギー・コットブスを途中から率いたのですが、4か月で解任。現在はシャルケU17を指導しています。

シューベルトの後にパウリを引き継いだトーマス・メグルは、暫定で2試合ほど監督を務め、その後はアシスタントコーチとしてライセンスの取得に専念。当時ホッフェンハイムIIで監督だったフランク・クラマーについで、2番目に良い成績でFußballlehrerのコースを終えています。蛇足ながら3番目で表彰されたのはハヴェルセで監督をしていたブライテンライターで、翌シーズンからシュテファンの後をついでパダボーンの監督に就任しています。

“Trainer!”はNetflixで見ることができます。なんと日本語字幕付きです。とてもよくできたドキュメンタリーで、サッカー監督という職業について、きっと見方が少し変わると思います。

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