Spielverlagerung:テデスコ監督インタビュー

テデスコ監督がシャルケに来てから半年。短い期間でチームをまとめ、ブンデスリーガの前半戦は2位で折り返しました。試合内容は非常に面白く、彼の特徴の一つでもある選手コンバートでは、マックス・マイヤーをボランチで起用し、新しい才能を引き出しています。ちょうどタイミングよく、ドイツのサッカー戦術サイトSpielverlagerungに、テデスコ監督のインタビューが掲載されました。

ラップトップ監督などと揶揄する人もいますが、インタビューではむしろテデスコ監督のヒューマンマネジメントのうまさが際立っています。訳はドイツ語版をベースにしていますが、用語の一部は英語版を参考にしました。

 

 

以下、Spielverlagerung からの翻訳です。

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“Interview mit Schalke-Coach Domenico Tedesco” at Spielverlagerung.de

Spielverlagerungでは初めて現役のブンデスリーガの監督にインタビューをする機会がありました。シャルケのドメニコ・テデスコ監督が、選手の戦術面での進化と、彼らをいかにして戦術プランに関与させるかについて語ります。

ゲルゼンキルヒェンを訪れました。オランダのサイト『De Correspondent』のミシェル・デ・ホークは、ラップトップ監督と呼ばれることもあるドイツの若い世代の指導者の話を書きたいと考えています。プロ選手経験のない若いアウトサイダーが、なぜドイツではプロの監督としてチャンスを得るのか、そして彼の母国であるオランダでは、なぜそうではないのかを知りたい。それにはシャルケを訪ねるより他に良い場所があるでしょうか。そこでは、32歳の新人に運命を託したクリスティアン・ハイデルがスポーツディレクターをしています。ミシェルはハイデル、選手たち、そしてもちろん監督とも話をする予定でした。

私たちはテデスコとの会合に同行しました。ドメニコ・テデスコの目から見て、戦術がどう大切か、彼が選手たちに必要な知識をいかに実装するか知りたいのです。

 

テデスコさん、私たちはフライブルク戦のビデオを持参しました。ここに守備の場面があります。

フライブルク対シャルケの場面。フライブルク(赤)がボールを保持。テデスコには映像を見せたが、権利上の問題によりここでは図で示している。

 

テデスコ: (映像を見てにっこり) いいね。美しい形です。

選手がこんなに完璧にポジショニングするためには、どのようにしたのですか?

テデスコ: まずかなりの量の作業です。とりわけチームとしてのもの。練習、練習、練習、ビデオ、さらに再び練習、練習、練習。一番大切なのはピッチでの活動です。選手がフォーメーションを保とうとしたら、いくつか柱となるものが必要です。後ろでラインを高く保つ誰か。いつ走り出すか決めるアタッカー。『どこで外へ押出す?』と言うミッドフィルダー。うまく調整する伝達者が3、4人。コーチ陣はチームと話をします。うまくいけば最終的にあのような場面になるのです。

少し早送りすると、ウェストン・マッケニーが前に出てプレスに行くところがあります。試合の中で何度も見られました。あらかじめ選手に何かを話すのですか、それとも選手が自然と決定するのでしょうか?

テデスコ: あらかじめ話します。

マッケニーはフォーメーションから外れてプレスを始めます。設定はどのくらい細かいのでしょうか?

テデスコ: どの選手がどの状況で切り替えるかは明確です。何がプレッシングのきっかけか?対戦相手がどのようなパスをしたらシグナルと受け止めるべきか?例えば、相手のセンターバック二人がややワイドにポジションをとっている場合。二人が互いにパスするとき、ボールは比較的長い距離を移動します。つまり足元から離れている時間があるということです。(テデスコは手を打つ)プレッシャーをかける最高のタイミングです。

プレッシングのきっかけは対戦相手それぞれで違いますか?

テデスコ: すべてに当てはまるトリガーはありますが、試合ごとに大きく変化します。

この場面に戻ります。シュトゥットガルト戦を前にしたあなたの記者会見で、興味深い発言を見つけました。あなたは、選手はあまりにも頻繁に対戦相手をブロックするが、プレッシングでは走り続けないと説明しました。

テデスコ: このシーンの右側が良い例です。ダニエル・カリジュリが走っています。しかし例えばシュトゥットガルト戦、他の試合でもありましたが、特にシュトゥットガルトに対して、このような状況で私たちはただブロックしていました。(テデスコは立ち上がり)ブロックとは通常、相手がボールを持っていて、単に彼らを通さないことを意味します。私ならあるサイドをさらして、相手に外へでも中へでも、それぞれの哲学に応じた方へと仕向けます。これは大きな違いです。 もし私が単にブロックしたら、相手には決定する時間がもっとあります。もし私が繰り返しブロックしたら、対戦相手はボールを後ろに戻します。次に誰かが前に出てきたら、相手はまた後ろに戻します。少し消極的ですね。もちろんそれもできます。下がって守るという哲学もあります。しかし、ディーププレッシング(注1)と、一方でパスコースを閉じながら、もう一方でディフェンダーがプレッシングをするということでは大きな違いがあります。しかしディーププレッシングなら、私はアイスホッケーのフォアチェッキングのように、いつも外へと押し出します。

この場面の最後の局面です。カリジュリが走り、パスを出す相手にプレッシャーをかけています。シャルケボールになって終わりました。

そして、ここがシーズン始めに選手が苦労したところですか。隠れた理由があると言っていた?

テデスコ: 選手はできています。しかし彼らはパスコースを遮るべきだと感じる段階があります。

それはあるチームにとって具体的な問題ですか、それともドイツ特有のものですか?あるいは全ての選手がそういう傾向を持っている?

テデスコ: 熱心に練習したパターンは、全ての選手の頭にあると思います。イタリアやオランダでも。

ではなぜ?その方がもっと簡単にできるから?

テデスコ: 走り続けるのは消耗します。走る時には集中もします。時々、相手がボールを後ろに戻したりもしますので、プレスをやめて元に戻らなければいけません。苦しいものです。

身をもってわかります。相手をブロックする方が消耗は少ない。そして機能するには全員が行わなければならない。

テデスコ: そう思いますね。

でもどう練習しているのですか?

テデスコ: 前方からのディフェンスを何度も練習します。ハンドボール・ヘディングでもできますよ。(ハンドボール・ヘディングは典型的なウォームアップの一つ。仲間がヘディングできるよう、ボールを手でパスします)(注2) 通常は守備側がボールを持った選手の正面に立ち、バスケットボールのように腕をふります。ここで別のルールを適用します。私がボールを持っている選手にタッチすると、ボールは私のものになります。それなら選手は走り続けます。

ほぼ脳レベルをトレーニングして、選手を再プログラムしなければならないようですね。

テデスコ: はい、私たちはもっと勇気を持ちたい。カリジュリはここではボールを奪い取れません。そうする必要もありません。しかし相手にもっと早くプレーさせなければいけないのは確かです。それで何が起こるか。(相手は)ボールを失います。もしその状況で相手に十分な時間があれば、オープンな味方を見て、さらに次の選手がオープンな選手を見つけ、それが続きます。ブンデスリーガでは全ての選手は質が高いです。彼らに時間を与えるということは、良い決定を下すということです。私たちは彼らから時間を取り上げたい。

今はできていますか?

テデスコ: かなり良くやっていると思います。さらに練習を続けなければならない。止めることのできないプロセスです。何度も何度も繰り返さなければいけません。ある種のエネルギー、コンディション、勇気、自己犠牲が必要です。

この話題は元ブンデスリーガの選手との会話を思い出させます。彼はよくダイヤモンド型の8番の位置でプレーしていました。サイドバックがボールを受けた時、彼は前に出てプレッシャーをかけなければいけませんでした。彼はほとんど一度もボールに勝ったことがありません。とても嫌がっていました。

テデスコ: もしひし形のミッドフィルダーなら、そうしないといけないですね。

なるほど。しかし監督としてどのように教えますか?もし100回走ってそれがすべて無駄になると知っていた場合。

テデスコ: そこがまさにポイントです。少しだけ繊細な感覚も必要です。選手の性格はどうか?彼はこれができるのか?多くのエネルギーを使い、攻撃の質を失ったりするのか?他のやり方で埋め合わせができるかもしれない?

ちょっと待って。図を描いてもらえますか?

テデスコの図。上がクラシックなバリエーション。8番がサイドバックの方へ走っています。下の図はテデスコのアイデアです。FWがサイドバックのパスコースをカバーし、CBに横へのパスを強います。セカンドストライカーはそこで走り出し、プレッシャーをかけます。10番はプレッシャーによるミスパスからのインターセプトを狙います。8番は6番がボールを受けると同時に攻撃をしかけます。

テデスコ: (図を示しながら) 2トップのダイヤモンド型。もしボールがサイドバックに渡ったら、選手はいつもひし形をはなれなければならない、と言う事もできます。理にかなっています。なぜなら私たちは中央に4人選手がいて、相手は通常は2人か、あるいは3人。中盤はそれで埋め合わせることができるでしょう。しかし、フォワードにこう言うこともできます。ここに立って。ボールが動いたらシャドウカバーに。(注3) だいたいは戻ってきて、次のフォワードが行きます。それか彼が6番の位置でプレーする。そうすれば10番が一人、8番が二人になります。(注4)

クリスティアン・ハイデルはあなたが選手を自分の戦術に関する考察に巻き込むのがとてもうまいと言っていました。選手と座って同じ高さでアイデアを伝えたりするのですか?

テデスコ: はい、定期的に。理解して実行するのは選手です。先程の例に戻りますが、あなたは8番です。ボールがサイドバックへ移ったら、8番は彼の前に移動しなければいけません。それが私のプランです、終り。……と言うこともできます。彼は練習で一回、二回はやります。三回目には息があがり、四回目の後ではもうやる気がないことに私は気がつきます。

疲労というわけではないですよね?

テデスコ: ええ、単に気分が乗らないのです。それでも土曜日はこれで試合にのぞむと言います。その時には私は20分でどうなるか知っています。機能しないだろう。練習ですでにわかっているのです。

全く逆の考え方をする監督もいますよね。彼らは選手に克服するように言うでしょう。

テデスコ: 私がそう考える時は、8番にたずねます。『何が問題?』『監督、距離が長すぎます』 そこで私たちは話し合います! それからこう言うこともできる。『わかった、じゃあ最初からもう少し広くポジションをとろう』 彼は二度ほど試して言います。『監督、意味がありません』 『どこに問題が?もしかしたらフォワードが、5回ではなく3回行けばよくなるよう助けてくれるかも』 こうして私たちは共通の考えを育てるよう試みます。これが大切です。それから選手がトレーニングで『イエス』と言ったら、それは試合でも『イエス』であるべきです。

つまり?

テデスコ: 戦術の練習、つまり、ビデオ映像を見てピッチで実際にしてみる。その後で私はいつもたずねます。『準備したことに良い手応えはありますか?これを実行できますか?』 もし『イエス』なら、(テデスコはテーブルを叩く)、言葉通りにとらえます。試合でも機能しなければなりません。もし機能しなかった、例えば対戦相手が違うことをしてきたなら、それは問題ではありません。その時には私たちコーチ陣が、新しいアイデアを持って対応しなければいけません。しかし相手が予想通りに来て、それにうまく対処できなかったら、翌日たずねます。『なぜうまくいかなかった?問題は何だった?』 そうやって成長していきます。しかし選手にはいつでも『うまくいきません。違うアイデアが必要です』と言う機会はあります。

スタッフは選手とは違う用語を使って話しますか?あるいは、例えばシャドウカバーのように、同じ用語を選手に対しても使いますか?

テデスコ: 同じ専門用語です。

選手は理解しますか?

テデスコ: はい。いまは。一から生み出す用語は多くはありません。シャドウカバーは百万年前から存在しているように感じます。

そうですか。用語を知らない人たちをかなり知っているもので。テデスコさん、お話をどうもありがとうございました。

テデスコ: ありがとうございました。

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以下、蛇足ながら注釈をつけました。

注1) ディーププレッシングについては、「サッカーマティクス」の「第9章 『動き』の世界を数学する」にも用語として出てきます。14/15シーズンにジョゼ・モウリーニョが率いたチェルシーのように、自陣のディフェンシブ・サードを守っているときに行われます。

注2) ドイツ代表チームの ハンドボール・ヘディングの映像。

注3) シャドウカバーについては、同じくSpielverlagerungからの翻訳に言及があります。

『Zonal Marking / Zonal Coverage ゾーンディフェンス 翻訳』

注4) ブンデスリーガではポジションを背番号で呼ぶ方法が一般的であり、非常にイメージしやすいです。6番(ゼクサー)は守備的ミッドフィルダー、8番(アハター)は攻撃的ミッドフィルダーです。

『指導現場でも重宝。ドイツで流通するポジション名と“背番号”』