DFBポカール:パダボーン対バイエルン

パダボーンがポカールの準々決勝に勝ち上がり、対戦相手が決まる前から、この試合は現地に見に行きたいと思っていました。リーグ戦の次の試合は金曜で確定していたので、日程的にポカール開催は火曜以外考えられません。予測に基づき飛行機は早々に押さえました。あとはチケットの取りやすい相手に恵まれればとの望みもむなしく、決まった相手はバイエルン。
これはスタジアムに入れないとチケットは諦めることにしました。

試合の日はどこかのパブで観戦できればいいなと思い、パダボーンの友人にドイツに遊びにいくよと連絡を取ったところ、ポカールの日は仕事でいないのに、前売りチケットを買ってしまった。よかったら譲るよとの返事が。おおおおお、これは!これは!行って応援するしかない!

日本からフランクフルト空港に到着し、さらに乗り継ぎでパダボーン=リップシュタット空港へ。いつもは電車なので、ここの空港は初めて利用します。のんびりとした田舎の匂いのする小さな空港から、中央駅まではバスで20分くらい。運賃は6.40ユーロでした。

とりあえずホテルにチェックインし、チケット受け渡し場所である友人の生家へ向かいます。ここは今は誰も住んでいないのですが、隣人ご夫妻がチケットを預かってくれていたのです。

パダボーンはブラックマーケットでのチケット売買撲滅に力を入れているので、譲ってもらったチケット(名前入り)で大丈夫なのか不安でしたが、確認されることもなくバーコードで入場。全く問題はありませんでした。

今期のパダボーンは三部では圧倒的な強さを見せています。前半戦でチームを引っ張ったのは、昨シーズンBFCディナモで得点を量産したスルベニー。移籍してきたパダボーンでは15試合で9ゴール8アシストの大活躍でした。残念ながら冬にチャンピオンシップのノリッチに1.5Mユーロで移籍。スルベニーの後釜として、ブラウンシュヴァイクからFWのティーツを、ボルシア・メンヒェングラートバッハからはレンタルでイエボアを、さらにマインツのクレメントとも契約を結びました。彼らがすぐにチームにフィットするかどうかは、この時点ではまだわかりません。後半戦ではスルベニーの抜けた穴がどのくらい影響があるかとても心配でした。

しかし、ポカールの少し前に行われたSFロッテとの試合では、相手が一人退場したこともありますが、5-0と圧勝。スルベニーの不在を感じさせませんでした。怪我で休んでいたリッターがこの試合から復帰したことも大きかったです。リッターはフォルトゥナ・デュッセルドルフからのレンタルですが、ロッテ戦ではCKからの直接ゴールを含め、2得点をあげています。

ポカールの日は少し早めにスタジアムへ向かいます。入口にはブンデスリーガ一部時代のような長い列ができていました。このような熱気はパダボーンでは久々です。

譲ってもらった席はホームと逆側のゴール裏だったので、パダボーンサポが掲げていた横断幕がよく見えました。

『Paderborner Fantastica macht das Wunder wahr』(パダボーナーのおとぎ話が奇跡をおこす)

振り返れば14/15に初のブンデスリーガ一部昇格。翌年、その次と連続降格。さらに1860ミュンヘンに助けられてレギオナルリーガ転落を免れ、そこから今季の三部リーグ首位独走。激動の数シーズンはまさに想像の域を超えた出来事ばかりでした。

試合前のゴール裏の期待感は、言葉にせずともひしひしと伝わってきました。たとえ相手はバイエルンであっても、今シーズンのパダボーンならきっと何かを見せてくれる。その後の結果はどうであれ、このワクワクする気持ちをスタンドで共有できたことは忘れられません。

ゴールキーパーはベテランのラタイチャク。

リーグ戦はツィンゲルレがレギュラーですが、ここまでカップ戦は全てラタイチャクと、監督の分担起用は徹底しています。ツィンゲルレはバイエルンユース出身なので、本当はこの試合でプレーしたかったでしょうけど。

これまでにバイエルンと対戦したことがあるのは、キャプテンのシュトローディクだけです。14/15シーズン前半にアウェイで4-0と敗れた時に90分プレーしています。

 

 

ロッベン『パダボーンはサッカーをしていた。私たちはそれがとても嬉しかった』

キミッヒ『パダボーンは果敢にプレーした。悪いピッチ状況でも、サッカーをやろうとしていたチームを称賛するよ。私はライプツィヒと共に三部から昇格した。その時でもパダボーンのようにここまで良いプレーはしてなかった』

試合後にバイエルンの選手がコメントしたように、パダボーンは自陣に10人並べてゴール前を固めるようなことはせず、パスをつなぎ、ゴール前で得点の可能性を探り続けました。バイエルンの攻撃には体を張り、それだけでなく鋭い読みでパスをカットし、前線へしっかりとつないでいきます。得点差の割には面白い試合だったと思います。

自陣ではDFのションラウやシュトローディクが、追ってくる選手を気にせず、低い位置でパスを回します。ブンデスリーガのチームでも、目の前にバイエルンの選手が迫ってきたらかなりあせるはずですが、パダボーンの選手の落ち着きには本当に驚いてしまいました。

7分にはセットプレーから、リッターが意表をついて出したボールに、ションラウが抜け出してゴールを決めますが、これは残念ながらオフサイド。先制していたらどんな展開になっていたか見てみたかったです。

前半で3点をリードされたものの、後半には中盤のヴァセイを下げてFWのティーツを入れ、4-1-3-2とさらに攻勢をかけてきたバウムガルト監督。さすがに70分過ぎにリッターを下げてからは、ボールがつながらなくなりましたが、2日後にリーグ戦が控えていることを考えると、温存するのは仕方がありません。80分にはゴール脇でミヘルがボールを奪って、パスを受けたティーツは流し込むだけだったのですが、なんとこれを外してしまいました。バイエルンから得点するチャンスを逃し、ティーツは悔やんでも悔やみきれない事でしょう。

試合後には、対面だったロッベンがヘルツェンブルッフに声をかけて、健闘をたたえていました。またライプツィヒが三部にいた時、ハンザ・ロストックで対戦しているクラウセも、キミッヒと話し込んでいました。試合中にも、クラウセがうまく倒れてファールを誘った時に、キミッヒが少し笑いながら肩をたたいている場面がありました。どちらも好きな選手なのでちょっと嬉しい。まだどこかでこの二人の対戦を見たいものです。

試合後の記者会見ではパダボーンを褒めてくれるハインケスの側で、本気で負けたことを悔しがるバウムガルト監督。コメントに信念が感じられて、ますます好きになりました。

『もしもチームが自滅したと感じるならそれは私のせいだ。なぜなら私が前でプレーするようにと言ったからだ。リスクもあったし、ミスもおかした。自分たちのしたことにしっぺ返しを食らったのだ』(バウムガルト監督)

 

三部リーグの一位とブンデスリーガの一位はどのくらい違うのか。どこが通用して、どこが通用しないのか。いつもなら通るパスが通らないのはなぜなのか。バイエルンのようなトップチームと対戦する時こそ、ふだん自分たちがしているプレーをしなければ、どこまで差があるのか測れないように思います。パダボーンにはこの試合で得た経験をもとに、さらに上のリーグでも通用するプレーも追求しながら、この先のリーグ戦も戦ってほしいです。そして、チケットを譲ってくれた友人と、精一杯チームを後押ししたパダボーンのみんなへ。素晴らしい夜を本当にありがとう。