シーズンチケットで露呈した問題

シャルケというクラブは、ファンとの間に強い結びつきがあり、例えばスタジアムのシーズンチケット代ひとつにしても、お互いに話し合いをもって決定している……というイメージを長い間持っていました。しかし今やそれは幻想にすぎないということを実感する出来事がありました。

個人的には薄々気づいていたのです。例えば2月にスタジアムを訪れた時に見た『#stehtauf』のスローガンです。ヘルタとの試合でスタンドからトルナリガ選手へ人種差別的なチャントがあり、問題となっていた時期でした。差別に対しみんなで立ち上がろう(#stehtauf)というキャンペーン。『#stehtauf』はスタジアム内のあちらこちらに掲示されていました。……足元にも。でもクラブ会長のテンネスが人種差別ととられる発言をしたときには、短期間の謹慎のみだったよね?みんなって何を指しているの?身内を正すこともできなくて何が『#stehtauf』なの?ボランティアで熱心に呼びかけている方々は素晴らしいと思いましたが、クラブの行うキャンペーンそのものには少し空虚なものを感じました。

さらに今回、シーズンチケットの扱いをめぐって、シャルケが非常にまずい対応をしたことが話題になっています。

新型コロナウィルスの感染拡大により、ドイツのサッカークラブは経済的に大きな打撃を受けました。中でもシャルケはキャッシュフローの面から存続が危ぶまれ、リーグが再開されずTVマネーが入らなければ、5月の初旬にも破産手続きに入る可能性が高いと報道されていました。もちろんコロナのせいだけで財政的に苦しいのではなく、それ以前からの自転車操業が原因であることをファンはとっくの昔に知っています。

2019/20シーズンの残りの試合が無観客となり、シーズンチケットの前受金(4~5試合分)をどうするかは、ドイツのクラブでそれぞれ扱いが異なります。例えばダルムシュタット。基本的にはシーズンチケット代はクーポン券で返還しますが、自主的に払い戻しを放棄した人々にはスタジアムに写真と名前タグを掲示。多くのシーズンチケットホルダーが喜んでこのオプションを選択しました。

https://twitter.com/sv98/status/1266387393030098945?s=20

あるいはパーダーボルン。払い戻しをどうするかは、オンライン上でそれぞれ選択できるようになっています。100%放棄する人にはTシャツやファンオブジェクトへの名前の刻印、あるいは50%であっても名前の刻印を選べます。またこの自主的な払い戻し放棄により、ファンはクラブだけではなく、6つのNPO団体(差別撤廃への協力プロジェクト、緊急医療サービスプロジェクト、小児・青少年のホスピスセンター、フードバンクなど)のサポートも同時にすることになると明記されています。クラブによるとこれまでに6割以上のファンがチケット代の返還を見送ったとのことです。

一方でシャルケはシーズンチケットホルダーへ送られた手紙が大きな問題になりました。

チケット代を早急に返還してほしい人は、なぜそのお金が今すぐ必要なのかの理由を明記し、可能であれば資料も添付の上、書面にて申し込むようにと書かれた手紙は、ソーシャルネットワーク上でものすごい勢いで広まりました。ちなみに早期返還を求めない場合はクーポン券が発行されます。これを将来のチケットや商品購入に使用しないままずっと持っていると、「イベント契約法におけるCOVID-19流行拡大の影響を緩和する法律」により、2021年12月31日以降に現金で受け取ることができます。しかしもちろん今すぐ現金で払い戻してほしい人もいるはずです。

シャルケのサポーターズクラブ(FC Schalke 04 Supporters Club e.V.)は当然すぐにこれに反応し、クラブへの公開書簡を提出しています。

『あなたはSchufa(信用調査会社)でなく、ローンを融資する銀行でもなく、AfA(職業あっせん業者)でもなく、ハルツ第4法(失業手当)は払いません。そもそもどの権利でこんなことをするのですか?あなたは物乞いです!会員やファンはあなたの銀行か、AfAか、生命保険ですか。いつも同じ目線での対話と言っていますね。それはもう何年も行われてなかったことですが、今やこれまでのあり方の上を行っています。クラブ会員が数か月先ではなく、できるだけ早くお金を返してほしいというのは正当な権利であり、理由を述べる必要は全くありません』

『あなたは近いうちにクラブ会員やファンに事前に話しをするべきで、彼らを取り込めば、共通の道もまたきっと見つかります。そういうやり方へ戻ってきたいかどうかよく考えてみてください。会員とファンはオープンな対話を閉ざしたことは一度もありません。しかし『Kumpel- und Malocher-Club(鉱山仲間と労働者のクラブ)』は長い間マーケティングでしか存在していない。その間、人々はS04のみではなく、取締役会と監査委員会の役員のことを非常に恥ずかしく思っています。恥を知りなさい!』

サービスの対価として支払ったお金に対し、サービスが行われなければ返還されるのはごく普通の権利だと思います。シャルケはそれを「お金が必要」な個人の事情までも明らかにすることを求めています。ファンが怒るのは当然のことでしょう。

シャルケはすぐに公式サイトで非があることを認めました。

彼らは「イベント契約法におけるCOVID-19流行拡大の影響を緩和する法律」を利用し、1年半後のチケット払い戻しに適用するために、事務的で思いやりのない書面を送ってしまったと謝罪。今後は払い戻しを希望する書類に裏付け資料を添付する必要もなく、理由のチェックもされないとのことです。しかし謝罪に連名でサービスセンターの社員が含まれていることで、担当者が書き方を誤ったと言いたげな印象も受けます。

クラブの対応としては実にお粗末であり、ファン心理を全く理解していないことが露呈された出来事でした。またシャルケは、シーズンチケットの払い戻しを放棄するという選択を、ファンに与えなかったブンデスリーガ唯一のクラブでもあります。この財政的な危機の報道に、クラブの役に立ちたいと思う人はきっと多かったでしょうが、今のマネージメントにはそういう心理を汲み取るセンスもありませんでした。謝罪文の中でエンパシーがなかったと自ら書いていますが、それはクラブがここ何年かで間違えてきた全てに通じる部分だとも感じています。

『しかしFCシャルケ04は、このクラブが何のためにあるのか、さっぱりわかってない人たちによって運営されている印象を受ける』(クリストフ・ビアマン at 11 Freunde

空虚なマーケティング戦略、繰り返される選手のゼロ円移籍、利益を回収できない投資、人種差別撤廃に身内の例外を設ける監査委員会。プロチームをスピンオフする話が浮上していますが、残念ながらそれだけでは今のシャルケが陥っている問題は何一つ解決しないでしょう。