Die Vermessung der Welt:世界の測量

ドイツから帰ってきたら、日本語で書かれた小説が読みたくて読みたくて。ドイツ語漬けだった反動かしら?

『Die Vermessung der Welt』はドイツの書店で見かけ、あー、面白そうだなあと思ったのですが、とても原文には歯が立たず(しかも会話部分がすべて接続法って・・・。ひー)、帰ったら日本語で読もうと思っていました。

日本語のタイトルは『世界の測量 ガウスとフンボルトの物語』(三修社)
数学の世界に多大な影響をおよぼしたカール・フリードリヒ・ガウスと、地理学者であり世界を測量して回ったアレキサンダー・フンボルトのふたりの半生を描いた物語です。



もっと難解かと思っていたら、あまりの面白さに本が手放せず、電車や地下鉄で移動する時間に一気に読みきってしまいました。

物語は最初にふたりが出会う歴史的場面があり、その時間に向かって収束されるように、一章ずつ、交互に、若いふたりを主人公にして話が進んでいきます。
どこまでが虚構でどこまでが事実か、あるいはすべてが虚構なのか。とにかくガウスとフンボルトの人物像と、ちりばめられるエピソード、会話、そして解説でも書かれていた悲しいまでに『ドイツ的』なところ。なにもかもが素晴らしいです。

著者のケールマンは自らが作った虚構すら、登場人物に嘲笑させていて、読みながらちょっと笑ってしまいました。

著者が馬鹿げた思いつきを歴史上の人物の名前と結びつけようとするあまり、ひたすら虚構のおとぎ話に没頭してしまっている小説といったものがその例です。
まったく吐き気をもよおしますな、とガウスは言った。(P239)

著者の意図する『ドイツ的』が、どのようなものか正確にはわかりませんが、外(読者、あるいは世界)から見ると滑稽であり、さも真面目に語っていながらも、実は登場人物たちが虚構の世界に内包されているこの場面は、なんだかドイツ的だなあと思いました。
自分を包含する世界や他者との関係に気づかず、ひたすら自分と自分が今いるところがすべてであるかのようにふるまうところ。世界を測る方法は生み出しても、自分をとりまく世界を測るすべを知らないところ。すごくドイツっぽいです。

ドイツ的であるがゆえに巻き起こるエピソードがユーモアいっぱいに描かれているので、読む分にはとてもおかしいのですが、現実社会で出会う『ドイツ的』な部分は、ドイツにいる時に何度か腹が立ったりもしました。
ま、それでもこの小説を楽しめるっていうのは、それも含めてやっぱりドイツが好きだから・・・かもね。

あとがきにある著者自身の解説によると、ケールマンは、ガウスが数学を基にした『抽象化と思考』、フンボルトが自分の足で回った『旅行と収集』という、全く対照的な手法を用いていながら、同じような目標に到達したことが興味深かったそうです。
章ごとにガウスとフンボルトの話が入れ替わり、両者の違いを際立たせているにもかかわらず、二人が出会った後の終わりに近い部分では、どちらがしゃべっているのかわからない混沌とした文章が続き、ふたたび旅に出たフンボルトは最後にはこんな風に感じます。

もはやフンボルトには、ガウスと自分のどちらが旅をしてきた者であり、どちらがずっと家にいたのかわからなくなっていた。

ドイツ的であり、孤独であり、『知の世界』に生きたふたりの天才は、手法の違いこそあれ、同じ真実を目指そうとした者同士、深い部分では共感を持ちえたということでしょうか。

構成、虚構、人物像、なにもかもが素晴らしいので、この本が出版された翌年、2006年には、『ダ・ヴィンチ・コード』や『ハリー・ポッター』を抑えて、『世界のベストセラー第2位』になったというのも納得です。

 

Die Vermessung der Welt:世界の測量」への2件のフィードバック

  1. いまAmazonでポチってきました!
    「なか見!検索」でチラ見するだけでも、はまる人にははまりそうですね。
    日本語で読んだ後に、原文と1行ずつ照らし合わせて吟味すると、さらにドイツ語の妙が味わえそう。

    YouTubeにある三修社のトレイラー、ご覧になりました?
    『冠詞』全3巻なんて、動画職人が作ったみたいで、もうギャグの領域です(失礼)。
    それにしても5月に出して7月でもう4刷って、うらやましい……はぁ。
    週末にゆっくり読むのが楽しみです。

  2. austerさんはきっと面白がってくれそう。
    小説好きなら楽しめると思うんですよね。伝記?と思って手に取ると、奇想天外すぎてついていけない人が多いと思うけど・・・。
    全然ちがうけど、なんとなくガルシア・マルケス風です。
    あっちこちに制限なくどんどん物語の世界が広がっていくような感じ。

    >原文と1行ずつ照らし合わせて吟味
    あー、それ勉強になりそうですね。
    日本の洋書コーナーにもあったんですが、書店の人が書いたポップに『多少、ドイツ語は難解』とあったので、ややビビり気味です(笑)

    YouTube見ました。
    『冠詞』全3巻、笑いましたよ。すごすぎます。ちょっと中身を見てみたいです。
    でもこのトレーラーを見ると、冒険小説?って思っちゃいますね。冠詞の海でおぼれる学習者。
    全3巻読んだら、冠詞の鬼になれるかしら。

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