Blizzardのストイコビッチ・インタビュー

数ヶ月前、イングランドのサッカージャーナリスト、ジョナサン・ウィルソンがThe Blizzardという新しいサッカー媒体を立ち上げました。

そのサイトの序文の中で立ち上げのきっかけについて述べられていますが、ジョナサンは『ずっとサッカーメディアの主流に不満を持っていたが、記者席やバーなどで他のライターと言葉を交わし自分だけがこういう不満を持っているのではない』ことに気がつきます。サッカーの歴史や分析、詳細なレポートなどにもっとスペースをさき、雑誌と本の間くらいのボリュームでできる媒体はないのか。

で、始まったのが『The Blizzard』です。

電子書籍と紙媒体の両方で配布され、ジョナサンの考えに賛同した各国のサッカーライターがそれぞれの文章を寄稿して構成されています。
すでに2号まで出されていて(ほんとはIssue zeroがあるから3回配本)、私はどちらも電子書籍で購入しました。
記事内容は多岐にわたり、欧州サッカーはもちろんのこと南米サッカー、過去のサッカーについての記録、インタビュー、試合の分析、回顧録などなど。長さも短いもので4ページ程度から十数ページにわたるものまであります。(ちなみにIssue Twoにはブンデスリーガの記事も掲載されています)

Issue oneには様々なサッカー記事と共にデニス・ベルカンプのロングインタビューが掲載されていました。それもかなり面白かったのですが、今回のIssue twoには名古屋の監督であるストイコビッチのインタビューが掲載されています。
インタビュアーはJapan TimesでもおなじみのAndrew McKirdy。Jリーグについての記事はほとんど彼が書いています。ジェフサポにはアレックス・ミラー時代のBBCスコットランドの特集番組で、JTの記者としてコメントしていた人、といえばわかるかしら?

インタビューの内容については名古屋サポならよく知っている話なのかもしれませんが、英文でこういうロングインタビューが出たことに価値を感じます。

ピクシーが30歳の時、現アーセナルの監督であるベンゲルが名古屋にやってきました。
ベンゲルにはかなり影響を受けているようで、ピクシーと彼の関係は『パーフェクト』であり、ベンゲル時代の名古屋で初めて戦術的な動きというものやモダンフットボールを理解するようになったと語っています。またトレーニングのやり方などもベンゲルの影響を受け、自分たちの選手がトレーニングの後に死にそうなくらい疲れたという状態になるのは好きでないそうです。

もしベンゲルと違いがあるとしたら、ゴールキーパーについての考え方。
ピクシーは前回会ったときにベンゲルに対し、GKはアーセナルの大きな問題であると思うと言ったそうですが、ベンゲルは自分が正しいと考えているようだったと述べています。

ベンゲルの他にはアンチェロッティのトレーニング方法やシステムなどにも影響を受けたそうです。

イヴィチャ・オシムについても少しだけ語っていて、90年イタリアW杯のユーゴスラビア代表監督だったオシムのことをほんとに尊敬しているし、選手ととても良好な関係を築くことのできる監督だったと言っています。冗談をたくさん言って選手をリラックスさせることにより、選手の能力を最大限に引き出すようにしていたとか。

インタビューはさらにユーゴがFIFAの制裁により国際試合から締めだされた頃の話や、ピクシーがツルヴェナ・ズヴェズダからマルセイユに移籍してプレーしていた話にも詳しく触れています。

さらに、彼の古巣であったズヴェズダとマルセイユが90/91チャンピオンズリーグ決勝で対決し、マルセイユがPKで敗れたときのエピソード。
その試合でピクシーは監督のレイモン・ゲタルスに、PKを蹴るメンバーに自分を選ばないでほしいとお願いをします。ズヴェズダは自分の祖国から初めてCLの決勝に進んだチームであり、一方でマルセイユの一員としてチームが敗れたことにも哀しみを感じたようです。

8ページ中、2ページ半は日本のサッカーについてインタビューに答えています。
日本の強みは『ディシプリン』、弱みについては『フィジカル』。今後、世界のサッカーはますますフィジカルの度合いを増していくと考えているようで、エリア内で決めることができるようになることがもっと必要と思っているようです。

またインタビュアーのAndrewが、『日本は様々な文化を取り入れてうまくアレンジして行くのが上手なことで知られているけど、日本のサッカーに独自のアイデンティティがあると思うか』と聞くと、20年たちようやく日本は少しずつ独自のアイデンティティを持ち始めていると思うし、結果に満足することなくさらに上を目指してほしいと答えています。
またサッカーはインターナショナルなスポーツで、文化や言葉、肌の色などが混在したものであり、誰かのコピーではなく、『You have to be yourself』であると言っています。
このあたりは民族問題で長年辛い思いをしてきたピクシーならではのメッセージであるような気がします。

日本のサッカーについて責任(Responsibility)を感じるか?という質問には、自分は選手としても監督としてもベストを尽くし、模範となるよう努力してきたし、人々が自分の仕事やメッセージに敬意を払うとしたらそれはとても嬉しいことだけど、たとえ人々が『ありがとう』と口に出さなくても、自分がしていることは自分自身で正確に理解しているそうです。

最後に将来のことについて質問されています。(答えを一部だけ抜粋。センシティブな内容なので訳しませんが・・・)

 

One day maybe to become national team coach, yes. If they think that I can help, if they think I can deliver something more to Japanese football, yes, I am ready. It would be a very big honour for me to lead the national team. For me it’s important that I have spent 10, 11 years in Japan and I understand the mentality and the people here. I know them and this is a big advantage.

 
実はすでに英語の全文が他のサイトにアップされていますので、興味のある方はぜひオリジナルをお読みください。

もっと余裕のある方は『The Blizzard』のサイトでIssue Twoを購入してあげてください。
アカウント登録をすればペイパルで購入することができます。私はiPodに落として読んでいます。『Pay-what-you-like』というシステムなので支払金額は自分で決めて買うことができます。(私は3ポンドで購入しました)

本の形で読んでみたいという方にはAmazon UKでも購入することもできますよ。

以上、駆け足ですが、『The Blizzard』とピクシーのインタビューについてのご紹介でした。『The Blizzard』はホントに質の高い試みだと思うので、うまく成功してゆくゆくは日本でも同じような試みがされるといいなあと思っています。

 

Blizzardのストイコビッチ・インタビュー」への4件のフィードバック

  1. 興味深く記事を読ませてもらいました。
    GKの件に関してはもっと強くベンゲルに進言してほしいっすw

    >サッカーの歴史や分析、詳細なレポートなどにもっとスペースをさき、
    >雑誌と本の間くらいのボリュームでできる媒体

    日本でも欲しいなあ。
    一時の「サッカー批評」はこの欲求を満たしてくれてたのですが…。

  2. >げんき君、
    ゴールキーパーの件、他のプロサッカー指導者はどう思っているのかなあという点がわかって面白かったです。そこ読んだ時笑っちゃいましたもん。
    やっぱり疑問に思っていたのねえw
    これはベンゲルの意見も聞きたいところよね。

    『サッカー批評』はまあ頑張っている方だと思います。
    ただ『Blizzard』はもっと自由奔放というか、例えていうなら、私が誰も興味を示さないパダボーンについて延々とレポートを書いたらこんな感じってのも載っています。面白いよ。

  3. 面白そうですね。

    英語あまり出来ないので、ボチボチ疲れない程度に読んでいきます。
    気に入ったら、他のissueも買って見ます。
    今週末、初クロアチアに行くので落ち着いたらになると思いますが。

  4. >alenaさん、
    けっこう量もあるので読むのはかなり疲れますよね。
    ごゆっくりどうぞー。
     
    クロアチアへ行くんですね。素晴らしい。
    ぜひぜひ楽しんできてください!

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