この夏の移籍市場では、いくつかのチームのサポにとって信じられないようなことが起こりました。元ブレーメンのハントは長年のライバルチームHSVへ移籍し、グロスクロイツは最愛のチームを離れました。アロフスが99%残ると言っていたデ・ブライネは、マンチェスター・シティへ記録的な金額で移籍し、そのあおりを受けてドラクスラーがヴォルフスブルクへと旅立ちました…。
入団会見でヴォルフスブルクのマネージャー、アロフスは、デ・ブライネの移籍が起きなかったら、ドラクスラーの獲得が実現することはなかったと発言しています。
シャルケのサポにとっては衝撃的な出来事でしたが、さらにショックなことに、本人がシャルケを出て行く事を強く望んでいた事実が記者会見で明らかにされます。
ヘッキンク監督の近年の仕事ぶりは素晴らしいですし、CLでの活躍やリーグ優勝も狙えるヴォルフスブルクという選択は別にかまわないのですが、それでも移籍の裏側に『ここではないどこかへ』が垣間見えるところが、個人的に少し後ろ向きに感じる理由なのかもしれません。
実は7月にオーストリアにキャンプを見に行った時から、ドラクスラーは移籍したいのではないかという予感はありました。
練習中も時折どこか集中していないような表情を見せ、テストマッチのプレーにも、この程度でいいだろうというおざなりな様子が見られました。部外者が短い滞在期間でもそう感じたのですから、常に一緒にいるチームメイトや監督、スタッフには、彼の気持ちは多かれ少なかれ伝わっていたはずです。
そしてブライテンライター監督がシャルケに就任して以来、ドラクスラーに言及した数々の発言が、今回のことで腑に落ちたような気がしました。
キャンプ初期の頃にWAZに掲載されたインタビューで監督はこんなことを言っています。
彼への期待によるプレッシャーは極端なほどに高いと感じるので、そういったものから守りたいと思う。
彼はもちろん特別なレベルの選手になりたい、世界のトップクラスになりたいと思っている。その一歩のために一生懸命に働き、才能だけに頼るところから脱却することを期待している。
またFCポルトとの練習試合の後で、ユーヴェからのオファーをクラブが断ったニュースに関するインタビューではこんなことも言っています。
ユリアンにはとてつもない素質があり、違いを出せる選手だ。この2年怪我という不運もあった。彼と一緒に全員で良いシーズンを、彼も怪我なしでシーズンを送るチャンスでもある。多くの可能性があるだろう。
キャンプ当時にSportBildに掲載されたフンテラールのインタビューは、『So helfe ich Draxler』(ドラクスラーをこのように手助けする)というタイトルがついていました。もちろんプレーの上でのサポートですが、今となっては暗示的でもあります。
(もしドラクスラーに助言するとしたら)明確な目標を持って試合に臨むことを学ばなければいけない。今日はアシストとゴールを決めるとか。ピッチではこういう気持ちを自由に行動であらわさなければいけない。いい例がクリスティアーノ・ロナウドだね。
良いシーズンにするために全員がきみを必要としている。きみのためにサポートする。しかしもっと努力しなければ次のステップに行けないよ、というシグナルはずっと送られていたように思います。
数日前のWAZの報道によると、監督は初日からドラスクラー本人に、チームを出たいということを告げられていたようです。
それでも留まって成長のための努力を一緒にしようと呼びかけていた監督。いいタイミングでのオファーがあったとはいえ、その呼びかけは残念ながらドラクスラーの決意を動かすには至りませんでした。
結局のところ彼はまだ21歳で、自分でも自覚している通り伸び悩み、あまりに大きな期待を背負いながらプレーすることに疲れたのかもしれません。
2年前のGQ誌にドラクスラーとジョーンズがインタビューを受けている特集があります。ドラクスラーがユースから初めてトップチームに参加した時、ジョーンズが声をかけ、なにかと世話をしてくれたことが書いてあります。
またワールドサッカーキングのシャルケ特集でも、ドラクスラーはラウールに多大な影響を受け、面倒を見てもらったことを語っています。
今日のチームを見ると、彼が精神的に頼りに思うような選手は残念ながら見当たりません。むしろ自分よりも若い選手達が増え、引っ張る立場に立つ事が多くなっています。それも移籍へと傾いて行った要因の一つのように思います。
数年前、ハノーファーのエンケが鬱病で自ら死を選んで以来、選手も人間であり、たくさんの弱い部分をもっているという事実が徐々に受け入れられてきました。記者会見での発言や、Facebookでの素っ気ない最後の挨拶を見ると、今のドラクスラーには自分の心を守るための防衛本能が働いているようにも感じます。
どうしても出ていきたいと追い詰められていた彼に対し、最終的に移籍という救済が与えられたことは、もしかしたら良かったことなのかもしれません。
ここではないどこかに青い鳥がいるのかどうかは、今の時点ではわからないけど…。
私にとって今一番の心配は、ドラクスラーのことよりも、彼が出て行った後のシャルケがどのようになるかです。
ブライテンライター監督が自ら選んだ道とはいえ、ますます困難になってきたシャルケでの仕事。
彼はパダボーン時代にも、誰にとっても耳に痛い正論を直球で述べたことがあります。昨シーズン、昇格騒ぎで大いに盛り上がった練習場とユースセンターの建設計画が、そのまま具体化されないまま数か月放置された時のことです。監督は自らの立場が危うくなるのではと心配になるほどクラブを強く批判し、それをきっかけに建設が一気に実現に向けて動き始めたのでした。彼があの時に発言しなかったら、パダボーンというクラブの傾向からして、計画は空中分解していたと思います。
同じことが今回のクラブ批判でも感じられます。監督の「クラブとその周辺はなぜユリアン・ドラクスラーが去ったか疑問に思わなければならない」という発言はまさに正論です。若い有望な選手が半ば燃え尽きたような表情で出ていってしまうことがなぜなのか、残念な出来事からしっかりと学び、根本的に正さなければいけない時期に来ています。
ユースを育てるだけでなく、トップチームでどう才能を開花させるか。クラブに関わる人々が真剣に考えなければならない命題だと思います。
初めましてこんにちは。いつも楽しく読ませてもらってます。
ドラクスラーの移籍はショックというよりも、複雑という感情が一番でした。
ただいろいろ自分の感情に言葉を付けようとすればするほど
腑に落ちなかったのですが、ブログを読ませてもらい落ち着きました。
移籍に関してはどんな状況であれチームを去るという事実は変わらず、
良い別れ、悪い別れと思うはこちら次第で…本人にとっては
どちらであっても関係ないのだとも思います。
彼がここではないどこかへと望んだことを手にした今、願うことは彼に多くの幸あれ
です。彼の努力は今以上必要ですが、シャルケで育った彼ならできると、
彼が振り返った時にいつか、監督やフンテラールの言葉と気持ちが響くときがやってくると
思います。
監督さんは素敵な人ですね、チームが抱えている問題を指摘するとは
確かに難しいことですが、それができるという人がシャルケにきたってことはまた
シャルケが変わるときなのかもしれないですね。
近々現地観戦する予定なので、監督さんにも注目して精一杯応援してきたいと思います。
すいません長々と。
これからも楽しみにしてます
コメントありがとうございます!
あまりに突然のことで、うまく自分を納得させることができなかったので、つらつらとまとめてみました。
おっしゃる通り、移籍は本人が一番良いと考える選択肢だと思います。決めるまでにはものすごく悩んだでしょうし、自分がこれから成長するために必要なことをつきつめて、道を選んだのだとも思います。
(でもやっぱり個人的にはいいのかなあ、その決断で、と思ってつい書いてしまいました。)
監督、すごくいい人ですよ。成功したいという野心ももちろんあり、それを別に隠してないですが、その一方で人のために全力を尽くそうと努力もする人です。ぜひぜひ観戦の際にはチェックしてみてください。ドイツ旅行楽しんできてくださいね。
いつか旅立つ日がくると覚悟はしていましたが、ドイツ国内はない(むしろあってほしくない)と思っていたので、ドラクスラーの移籍はとてもショックでした。
>それでも留まって成長のための努力を一緒にしようと呼びかけていた監督
こんなに素敵な監督に出会えたのに、監督のことばが届くにはまだ少し若かったのかもしれませんね。
Kameさんや他の方に比べたらシャルケのこと断片的にしかわかっていないのですが、過去に去った選手たち自身が問題のあるパーソナリティーだったとしても、離れてまでもよくない発言をするのは、クラブの内部になんらかの問題があるのではないかな?と感じていました。
自らの立場を顧みず、正論を述べる監督の存在がポジティブな方向へと導いてくれることを望みます。
kameさんこんばんは。こちらでははじめましてです。ブログ拝読しました。
正直ユリアンが移籍が現実になってからもどこかモヤモヤとした感情が拭いきれませんでした。
新監督の下昨季を払しょくする結果を残してほしいと願い期待しているし、
そこにユリアンの姿が当然のようにそこにあることを疑っていなかったからです。
ユリアンが『ここではないどこかへ』と強く思うようになってしまったことは本当に切なくなりました。
ただ、監督さんが最後までユリアンに寄り添い、クラブに対しても警鐘をならす発言をしたことは、ユリアンの心の底にあるものを代弁してくれたんだとも思えました。
シャルケで最後に仕えた監督がブライデンライター監督でよかったと思います。
監督やフンテラールの言葉、ユリアンにも届いていますよね、きっと。
ユリアンの人生、大きく花開くことを願ってやみません。
同時にシャルケがブライデンライター監督とともに成功してほしいと心の底から思いますし、精一杯応援します。
いつもあたたかい言葉を綴ってくださるkameさんのブログ、これからも楽しみにしています。
>みっきーさん、
コメントありがとうございます。
国内というのは確かにちょっと残念ですね。本人もそこまで冒険したくなかったようですし…。
移籍した選手が古巣を批判するのはよくあることですし、それはシャルケに限った事ではないかなと思います。
例えば使われなければ当然、自分のことは棚に上げて批判するでしょうし…。
そして出て行ってから言うのは簡単なことで、内部にいるときに言うというのはとても勇気のいることだと思います。そういう意味でも監督はいままでにないタイプだなあと思います。
大変なことはわかっていますが、なんとか良い方向へ向かってほしいですね。
>himaさん、
コメントありがとうございます。
ユリアンはすごく愛されていたし、みんなに心配されていたんだなあとあらためて思います。
そしてそのことは彼も十分わかっているんだと思うけど、発言を聞いていると、自分の成長に対しものすごく危機感をもっているのが感じられます。
外から見ると、まだ若いからもう少しここでと思うけど、本人にしてみれば、今の歳でこの程度しかできていないことがもどかしかったのかもしれませんね。
きっと時間がたつと、あの時にいろいろ言ってくれた人の気持ちを、素直に受け入れる日が来ると思います。
取り残された方も(特にファンが一番だと思いますが)、時間が経つと、彼の決断をあまり辛くならず受け止めることができるかなあと思います。
あらためて、ありがとうございます。これからよろしくお願いします。