ブンデスリーガのスローガン

 Jリーグは毎年、各クラブがそのシーズンのスローガンを発表しています。tkqさんがまとめているスローガン集を読むと、どのくらい定着しているのかなと疑問に思うこともしばしば。

 また、知恵を絞って作りだした英語表現が、ネイティブの間で問題となることも少なくありません。今年のスローガンで話題となった英語表現については、リンク先のポッドキャストが丁寧に説明してくれています。こちらは英語学習も兼ねて多くの方に聞いてほしいです。

 じゃあブンデスリーガのスローガン事情はどうだろうということが気になり、軽い気持ちで調べ始めたら、思っていたよりも手間のかかることに。クラブ理念がスローガンを兼ねているところもあれば、残留を目指してシーズン途中からキャンペーンを展開するところもあります。検索していて404エラーやニュースの有料化という壁に突き当たることも。細かく見ると定義や重みも違いますが、ここでは大枠でスローガンと呼べるものを集めてみました。その上で、それぞれを伝統コンセプト型、文章型、目的志向型、存在しないけど存在する型と4グループに分けました。


1.伝統コンセプト型

 これは説明付きでないと、その言葉だけではよくわからないグループです。伝統あるクラブがほとんどで、いろいろ説明しなくても理解できるよね、という意識が根底にあるのかもしれません。メディアへの露出も多く、マーケティング自体にもお金をかけているので、言葉そのものは浸透しているように感じます。

 

バイエルン・ミュンヘン Mia San Mia(俺たちは俺たち) 2012年

 Mia San Mia(ミア・サン・ミア)と聞くと、すぐにバイエルン・ミュンヘンが出てくるところから、スローガンとしては大成功していると言ってもいいでしょう。英語にすると『We are who we are』。始まりは意外と新しく2012年のようです。クロップなどの代理人も務めているコシュケ氏が、Kickerのポッドキャストの中で、バイエルンの従業員から選ばれたタスクフォースと共にこれに決めたという話を披露していました。ウリ・ヘーネス元会長が「新規加入選手にはバイエルン・ミュンヘンらしさが足りない」とこぼしたところから、バイエルン・ミュンヘンとは何かという究極の問いとなり、その答えがMia San Miaだったようです。「俺たちは俺たち以外の何者でもない」という主張は、バイエルンの側に立つ人にとっては自信と確立された自己の表れとして、それ以外の人たちにとってはバイエルン人の傲慢さが瞬時に感じられるという、大変良いスローガンだと思います(ほめてる)。

 

ドルトムント Echte Liebe(真実の愛)  2010年

 Echte Liebeもかなり定着しているスローガンでしょう。2009年12月19日のクラブ100周年を『Dank für 100 Jahre echte Liebe』(100年にわたる真実の愛に感謝)というキャンペーンで祝ったのが始まりとされています。Echte Liebeというスローガンは、この時のマーケティングキャンペーンの一環として定着しました。コーポレイトデザインの統一も図り、例えば黒と黄色の角度は必ず09度になるように配置してあります。

 スローガンとコーポレイト・アイデンティティに基づいたデザインでイメージを刷新し、しっかりと融合させている良い例かと思います。

 

シャルケ  Wir leben dich (私たちはあなたを生きる) 2012年

 Wir leben dichも広く浸透しているスローガンだと思います。シャルケは2012年に初めてクラブ理念をまとめ、クラブ総会で発表しました。『FC Schalke 04. Wir leben dich.』、以来いろいろな場面でこの言葉を目にする機会が増えます。2019年にはこれを少しだけ変更し『Wir leben dich』としました。違いは頭のFC Schalke 04.を取り、最後のピリオドを外したこと。文章をピリオドで閉じないことで、Wir leben dich + mutig(私たちは勇気を持ってあなたを生きる)などのように、拡張が可能となりました。バイエルンのMia san miaが、例えばMia san FC Bayern (俺たちはFCバイエルン)のように、置き換えパターンが使えるのと同じく、広がりのある手法です。

 

ケルン  Spürbar anders(感じ取れる違い)2015年

 ケルンも非常に伝統のあるクラブで、「ケルンはそこら辺のクラブではない。特別なのだ」ということを強くアピールしています。公式サイトのステートメントでは、「FC(エフツェー)はドイツで4番目に大きな都市ケルンの心と魂を体現しています。他のどの都市にも、これほど激しくクラブに熱狂しているところはほぼありません」と言い切っています。ドイツで頭に定冠詞をつけて「The Club」といえば1.FC ニュルンベルクを指すように、「FC(フットボールクラブ)」といえば、それは1.FC ケルンを指しています。公式サイトには、ケルン市民の80%がFCに親近感を持ち、その成績を気にしているとの記述もありますが、事実だとすると驚くべき数字です。

 

ブレーメン  Lebenslang Grün-Weiß (生涯 緑と白)2012年

https://www.youtube.com/watch?v=THGuEkXRGKY

 ブレーメンの『Lebenslang Grün-Weiß』も認知度の高いスローガンです。2017年の調査によると、バイエルンのMia San Miaに次いで2番目に高かったそうです。ブレーメンのクラブ曲も同じタイトルです。緑と白をチームカラーやクラブ名にしているところは他にもたくさんありますが、緑と白で一番に出てくるのはやはりブレーメン、というシンプルな主張も感じられます。また公式サイトでは、緑と白だけでなくLebenslang(生涯)を使って、次のような社会関与への約束もしています。Lebenslang Gesund(生涯健康)、Lebenslang Tolerant(生涯寛容)、Lebenslang Umweltbewusst(生涯環境配慮)一部を切り取って使える点で応用の効くスローガンですね。

 

シュトットウガルト furchtlos und treu (大胆にして忠実)2009年

 シュトゥットガルトのスローガンも伝統を思い切り前面に出しています。公式サイトを見ると、200年前、この地方のヴュルテンベルク王国が掲げていたモットーと同じものだそうです。ナポレオンの時代までさかのぼるスローガン。そこらの歴史の浅いクラブには真似できないだろうという、さりげないアピールを感じさせます。さらにクラブのエンブレムは、ヴュルテンベルク王国の紋章もなぞらえています。かっこいいです。Jリーグでこれに対抗できるのは、水戸ホーリーホックの葵の御紋くらいしかなさそうです。(別に対抗しなくてもいいのですが)。


2. 文章型

 このグループはスローガンに多少の説明が含まれています。文章がそのままで意味をなしている点が、伝統コンセプト・グループとの違いです。親切です。

 

ヘルタ・ベルリン Die Zukunft gehört Berlin.(未来はベルリンのもの)2017年

 これはとてもわかりやすいスローガンだと思います。個人的にも好きです。もともとはクラブ創設125周年を迎える準備として用意されたものです。ヘルタの公式サイトを読むと、2017年当時はベルリンに流入する人々が増加し、観光ブームや様々なスタートアップ企業の中心として、輝かしい未来が期待されていたようです。まさかその先に、もう一つのベルリンがブンデスリーガに昇格してくる未来が待っているとは、その時点では予想もしなかったでしょう。『未来はベルリンのもの』。そう思うと、素直な称賛と希望に満ちたスローガンに、そこはかとないアイロニーも感じます。

 

アルミニア・ビーレフェルト Wir sind Ostwestfalen(俺たちがオスト・ヴェストファーレン)2012年|#AufArminia(アルミニア、上へ)2019年

 ビーレフェルトは「存在しないけど存在する」グループではなく、明確にスローガンを展開するグループに属しています。2014年にまず、『俺たちがオスト・ヴェストファーレン』というスローガンを発表しました。オスト・ヴェストファーレンというのは、ノルトライン=ヴェストファーレン州の西側の地域を指しています。デュッセルドルフを始め、ケルン、ドルトムントなどの大きな都市が密集する州の西側と比べ、東側は経済的にもサッカー的にもかなり地味な印象があります。それだけに地域の連帯を意識し、根ざしている場所を強烈に意識したスローガンは効果的だったと思います。オスト・ヴェストファーレンのモチーフは保ったまま、2019年からは『#AufArminia(上へ、アルミニア)』キャンペーンを始め、ブンデスリーガへの昇格を目指しました。オスト・ヴェストファーレンの雄として、今期はさらに#AufArminiaな成績も期待したいところです。

 

ホッフェンハイム Ein Team. Ein Weg. Einmalig.(1つのチーム、1つの道、唯一無二)2015年

 このあたりになると、Jリーグのクラブが作るスローガンに近いものを感じます。クラブとしての独自性を盛り込んでいるわけではないので、どのチームでも使える汎用性があります。ナーゲルスマン監督は去りましたが、ホッフェンハイムの革新性や若々しいイメージを、もう少しうまく生かせるスローガンもあるのではないかと思ったりもします。ただ、データやテクノロジーでサッカーを改革してきたクラブは、あえて『レボリューション』などと自分で言わないところが良いのかもしれません。

 

ヴォルフスブルク Immer hungrig (常にハングリー)2019年

 ヴォルフスブルクというクラブは、ブンデスリーガでの優勝経験もありますが、全体に存在感が薄く、それを自らネタにすることも多いクラブです。お金のあるクラブという世間の認識に対し、あえて『常にハングリー』という逆説的なスローガンを採用しているところも、得意な自虐ネタを彷彿とさせます。スローガンを紹介する映像の中では「伝統がない?」「田舎?」との悪口や、「ええ、ヴォルフスブルク(町)がつまらないのは確かです」とこぼす選手も。だからこそサッカーしかないのだ、だからこそハングリーなのだという流れはわかりやすいです。しかし、スローガンとのミスマッチは最後まで否めませんでした。良いところまでは行くけどちょっとずれているのが、ヴォルフスブルクの素敵なところです。

 

フライブルク SC Freiburg – mehr als Fußball (サッカーを超えて)2015年

 バルセロナのMés que un club(クラブ以上の存在)という言葉が当てはまるクラブを、ドイツであげるとしたら、個人的にはザンクト・パウリとSCフライブルクを選びます。どちらもサッカークラブという存在を超え、人権、環境、ジェンダー、教育問題、社会支援などに積極的に取り組んでいます。フライブルクという街の先進的な環境保護活動も、クラブのあり方を支える背景の一つでしょう。『mehr als Fußball(サッカーを超えて)』はサッカークラブの社会的責任をしっかりと受け止め、自分のものとし、発信している素晴らしいスローガンだと思います。サッカークラブにサステナビリティというのも変ですが、同じ監督でずっと続けているところが妙に持続可能性を体現しているようにも思えてきます。

 

バイヤー・レバークーゼン Die andere Familie(もう一つの家族)2014年

 レバークーゼンは2014年に『Die andere Familie(もう一つの家族)』というスローガンを発表し、かなり力を入れてマーケティングを行いました。レバークーゼン近郊の中立なサッカーファンも呼び込もうとした背景には、減少傾向だった観客数が影響しています。同時にサブのスローガンとして、『Du und die Werkself(キミと工場のイレブン)』も使用。当時のクラブ幹部は『私たちは、若々しく、エモーショナルで、家族のように親しみやすく、愛される存在として認識されたいと望んでいる』とコメント。Werk(工場)には製薬会社バイエルの従業員が設立したサッカークラブとしての歴史や、その工場があるレバークーゼンの町も想起させます。クラブはその後も『Werkself』を積極的にハッシュタグなどで使用、しっかりと定着して愛されているように感じます。

 

RBライプツィヒ  Die Roten Bullen(レッドブル)| Dein Jubel – Meine Motivation(キミが喜ぶと頑張れる)2019年

https://twitter.com/DieRotenBullen/status/1189960084253822978

 RBライプツィヒは2019年に『Dein Jubel – Meine Motivation』キャンペーンを実施。ザクセン州、テューリンゲン州、ブランデンブルク州、ザクセン・アンハルト州など、250か所に広告が展開され、20以上の映画館でイメージ映像が流れました。映像の中では、「共に成長する」「すべてにハングリー」「私たちは家族」や、人種差別反対を盛り込んだ「僕たちのボールはカラフル」などを訴えています。しかしお金のあるクラブはなぜハングリーと言いたがるのでしょうか。RBライプツィヒは『Die Roten Bullen』という言葉も常に前面に押し出します。クラブカラーの赤と、猛々しい牛のイメージは定着していますが、英訳するとレッドブルです。企業ロゴに酷似したクラブのエンブレムといい、ここまでわかりやすく企業マーケティングを意識させるクラブもないと思います。


3.目的志向型

 ある目的を達成するために掲げたスローガン。目標とはずばり「ブンデスリーガ残留」です。もちろんそれ以外の意味でも使える工夫がしてあります。

 

マインツ Mainz bleibt(マインツは残る)2019年

 bleibenという動詞は「残る」を意味し、マインツはブンデスリーガ1部に残留するという強い意志を感じるスローガンです。わかりやすいです。これに形容詞や名詞をつけると、映像にあるようにMainz bleibt 〜で、マインツは〜のままであるという意味になります。拡張型スローガンの一つとして応用の聞くパターンです。これを発表したのは2019/2020シーズンですが、今シーズンも継続して使えるところもお得ですね。マインツはカーニバルの街としても有名で、毎年カーニバルの放送をする「Mainz bleibt. Mainz」という有名な番組があります。そのあたりを意識して、コラボレーションする意図もあったのかどうかが個人的に気になるところです。

 

アイントラハト・フランクフルト Auf jetzt! (上へ、今すぐ!)2016年

 2015/2016シーズンのフランクフルトは、残留争いにどっぷりと引き込まれ、最終的に2部とのプレーオフで残留を決めるという大変な年でした。その時に作られたスローガンが『Auf jetzt!(上へ、今すぐ!)』です。目の前の数試合と、プレーオフを何としても勝つには即効性のありそうなスローガンです。フランクフルトはこの年を最後に、それ以降は順調に成績を上げたため、スローガンの本来の意味も薄れました。それでも昨年の春に再びこのスローガンを使い、今度は新型コロナウイルスとの戦いにおけるキャンペーンを展開しています。

 

アウクスブルク Augsburg hält zusammen(アウクスブルクは団結する)

 アウクスブルクは2016/2017シーズンは残留争いに巻き込まれ、30節では降格圏の16位と苦しんでいました。残留を勝ち取るために特別ユニフォームを製作し、胸もとに『Augsburg hält zusammen(アウクスブルクは団結する)』というスローガンを入れました。その結果、残り4節を1勝3分と逃げ切り、最終的に13位で残留を勝ち取ったのです。ここまで見たところ、残留向け特別スローガンの威力はけっこうあるので、今期のシャルケも試してみてはどうかという気がしてきました。2020年はこのスローガンが『Augsburg hält zusammen 2020』へと進化。新型コロナで苦しむ地域との連帯を訴えるキャンペーンでも使用しました。


4. 存在しないけど存在するグループ

 ここでは公式にミッション・ステートメントやスローガン、モットーのサイトが見当たらなくても、事実上、存在しているというグループをまとめました。

 

ボルシア・メンヒェングラートバッハ Die Fohlen(若駒・子馬)|Unzähmbar(悍馬)

https://twitter.com/borussia/status/1276917421241221121

 『Die Fohlen』は子馬というよりも、荒々しい青年期の馬の方がイメージに近い気がします。グラートバッハは2018年に、それまで使っていた『Die Fohlenelf(若駒イレブン)』から『Die Fohlen(若駒たち)』へとリブランディングしました。それにより、選手たちを指す限定的な意味合いから、クラブにかかわる全てに対して用いやすくなったのです。このニックネーム自体は、1964/65シーズンから使っている歴史のあるものです。バイスバイラー監督が率いていた若くて無謀な若者たちを、ライニッシュ・ポスト紙の記者が『バイスバイラーの若い野生の子馬』と形容したのが始まりのようです。現在のチームを見てもそのイメージは継承されているように見えます。また、2017年頃から『Unzähmbar』という表現も使うようになりました。上では『悍馬』と訳していますが、飼いならせない、手に負えない、という意味です。2020年には医療用マスクの購入を助けるため、Unzähmbarを胸に入れた特別なチャリティー用ユニフォームを作りました。また今シーズンはチャンピオンズ・リーグへの挑戦にも使っています。スローガンはこれだ!という言い方はせず、いつの間にか浸透させるところがグラートバッハ・スタイルのようです。

 

ウニオン・ベルリン Und niemals vergessen  – Eisern Union! (決して忘れない – 不屈のウニオン)

 スローガンを探すのに一番苦労したのがウニオン・ベルリンです。昇格時のドキュメンタリーなど、部分的なキャンペーンはあるものの、明確にスローガンであるとわかるものは見つかりませんでした。わざわざ言わなくても、ウリオン・ベルリンといえば『Und niemals vergessen  – Eisern Union!』であり、それはもう伝統コンセプト型グループと言っていい性質のものかもしれません。ブンデスリーガ昇格1年目には、クラブ公式YouTubeのタイトルに、ずっとこの#undniemalsvergessenを使っていました。言葉のイメージがクラブと直結しているため、これ以外のスローガンは必要ないのかもしれません。


 以上、2021年2月時点でのブンデスリーガ1部各クラブのスローガンをまとめてみました。2010年代半ば頃までは、スローガンとクラブ理念を明確にすることが流行っていたようですが、今はインターネットを使い、ハッシュタグで始めるパターンが多いように感じました。またクラブのブランドイメージを決める一語を目的に応じて膨らませる手法は、Jリーグのクラブにとってもお手本になると思います。