バーダー・マインホフ

昨日は時間があったので渋谷のシネマライズで『バーダー・マインホフ 理想の果てに』という映画を見てきました。
今年度のアカデミー外国語映画賞にノミネートされたドイツの映画です。

1967年、イラン・バーレビ国王(ムハンマド=レザー=パフラヴィー)夫妻のドイツ訪問を発端に、1977年ドイツの実業家シュライヤーが誘拐され遺体となって発見されるまでの10年を、ドイツ赤軍(RAF)の活動を中心に描かれています。これまであまり語られることのなかったドイツ現代史の闇の部分を、RAFの起こした事件をリアルに再現しながら、圧倒的な迫力で映像化しています。
上映時間は2時間30分と超長いのですが、とにかく面白いのなんのって。息つく間もなく、最後まで怒涛のように押し切られてしまいます。

最初見る前に、ドイツ赤軍って聞いてなぜかロシア・ボリシェビキとドイツの関係の話か(たぶん皆川博子さんの本の影響)と思っていたら、全然違ったー。
むしろ日本赤軍をイメージすると近いものがあるかも。(大雑把な説明でスミマセン)

バーダー・マインホフというのは人の名前で、アンドレアス・バーダーとウルリケ・マインホフという2人のRAF中心人物のことです。彼らのグループはRAF(ドイツ赤軍)またはバーダー・マインホフ・グルッペという呼び方をされています。
グループの中でも特にウルリケという女性は、元ジャーナリストで、新聞のコラムやテレビの討論会でも活躍していた知性あふれる女性だったにもかかわらず、抗議活動の中で学生が射殺された事件を契機に、家族や仕事を捨て、RAFの活動に深くかかわっていきます。

彼らの起こした事件、かかわっている人物が膨大で、ストーリーを追っていくだけでも大変なんですが、その中でも、例えばシュプリンガー社の爆破事件などは個人的に興味深かったです。今でもこの出版社の出している新聞は記事が偏っているので嫌いですが(Bild、Die Weltなど)、昔から強硬な論調を張る新聞社であり、爆破予告があっても社員を避難させることすらしなかったというのにはちょっと驚きました。

RAFの第一ジェネレーションであるバーダー、ウルリケ、グドルンらは1972年に逮捕されてしまうのですが、その後もドイツの警察当局が思ったようにはテロは終息せず、むしろ、続く世代がバーダーらの釈放を求めて、さらに過激なテロを繰り返し、その暴力がさらに暴力を生み・・・という連鎖を繰り返します。
RAFの活動ばかりでなく、ミュンヘン五輪で選手村に侵入したテロ組織にイスラエル人選手が惨殺されたのも、1972年のことです。

パンフレットを読むと、製作者であるアイヒンガーは観客がキャラクターに感情移入しないよう、意図的に構成要素をばらばらにする劇作法を取ったとあります。制作側が解釈を示唆するのではなく、見る側に質問を投げたかったからだそうです。
見終わった後にはなんとも言えない感情が残ります。特に誘拐され、国に見捨てられる形でテロの犠牲になった人たち。テロと戦う国家という命題は絶対的に正しいんでしょうか?

投げかけられた質問の先には、その答えをいまだ見つけることのできない現在の世界がつながっているような気がします。

それにしても、この映画を見ていると圧倒的な暴力の渦にいつしか魅了される気分になるところが恐ろしい・・・。

追記:ちなみにこの映画のプロデューサーであったベルント・アイヒンガー氏は2011年1月24日、61歳で急死しました。
『Film giant Eichinger dies of heart attack in LA』
ドイツ映画界が誇る素晴らしいプロデューサーだっただけに早すぎる死が悔やまれます。R.I.P.