映画『Spielerberater 代理人』

3月14日から19日まで、第10回国際フットボール映画祭(公式サイト)がベルリンで開催されていました。
オープニングセレモニーではフィンランドのヤリ・リトマネンがゲストとして招かれ、開催中にも様々な豪華なゲストが登場しました。
土曜日にはシャルケのティモ・ヒルデブラントと彼の代理人ヨルグ・ネプルングが登場。
その日、映画祭で上映された『Spielerberater』というドキュメンタリーは、このふたりにフォーカスした内容のものでした。

ヨルグ・ネプルングはケルン在住のサッカー代理人で、2009年に亡くなったロベルト・エンケの本(『A Life Too Short』)でも重要な役割を果たしています。
45分のドキュメンタリー『Spielerberater』がYouTubeにありましたので、どんな内容なのか見てみました。

実に興味深いドキュメンタリーだったのですが、なにぶんにもドイツ語なので、老婆心ながらこのドキュメンタリーのバックグラウンドを少し説明してみることにしました。

この映画を見るにあたって、ヨルグがエンケの代理人であり、エンケの短い人生の中で大きな役割を占めていたことを知っていると、さらにこのドキュメンタリーにこめられた意味がよく理解できると思います。

映画の中で彼は『自分がエンケの代理人をしていたことを知ると、相手がはっとしたりする』、ということを言っていますが、2009年にドイツ代表GKだったエンケが自ら死を選んだことは、サッカー界だけでなく、社会全体に衝撃を与え、人々にとって今も忘れられない出来事となっています。
ヨルグ自身もエンケの亡くなった後、プライベートでも仕事でも大変つらい時期を過ごしたと語っています。
エンケについて書かれた『A Life Too Short』を読むと、鬱病を発症したエンケに対し、代理人でもあり友人でもあったヨルグがいかに献身的に接し、親身になってエンケを支えたかに本当に心を打たれます。

映画にはヨルグが契約している二人のキーパーが登場します。 一人はシャルケのティモ・ヒルデブラント。
もう一人はビーレフェルトでプレーをしている19歳のシュテファン・オルテガ。
19歳のオルテガはビーレフェルトで将来を嘱望された正GKでしたが、映画の最後の方ではレギュラーの座を失ったことを告げにヨルグのところへやってきます。

撮影当時、ティモ32歳、オルテガ19歳。
この、年齢において対照的なふたりのGKの境遇が、本に描かれていたエンケの記憶と重なります。
ティモは若くしてドイツ代表に選ばれ、シュトゥットガルトではマイスターを経験しましたが、スペインへ移籍したことが裏目に出て、最後にはスポルティング・リスボンの第3キーパーにまで落ちてしまいます。その様子は同じようにスペインへの移籍がうまくいかず、ハノーファーに復帰するまで、セグンダのチームでプレーしていた不遇時代のエンケを彷彿とさせます。
ティモはヨルグと2011年に代理人契約を結びますが、その前は代理人なしでの移籍を試みたりしていたようです。よほど代理人で失敗したことがダメージだったのでしょう。
そのようなティモの代理人として、ヨルグがシャルケとの契約を成立させ、彼をどん底から救ったという事実はとても興味深いです。

一方でオルテガは映像の中でも描かれますが、試合で続けざまにミスから失点してしまった時、ヨルグは彼を擁護する発言をします。”Solche Fehler hat jeder Torhüter schon gemacht”(あのようなミスはすべてのキーパーがすでにやっている)
エンケの本には現シュトゥッツガルトのウルライヒが19歳の時に試合でミスをして、当時の監督だったフェーに批判されたエピソードが書かれています。エンケはフェーの発言をテレビで見て、一度しか話をしたことのないウルライヒに電話をかけます。
『君のミスではない。二度目のゴールは運がなかっただけだ。監督が公の場でキーパーを批判するのは間違っている』
バルセロナへ移籍した時、最初の試合でミスをしたことをチームメイトから公然と批判されたことが、エンケを深く傷つけたことを知っているだけに、ヨルグは若いキーパーのミスにどのように対処していくのかにも心を配っているように思えます。

冒頭で、『言い古された言い方だけど、代理人は椅子に座って電話をして契約を交わしてそれで大きな利益を得るというのは全くのたわごとだ。私たちは若い選手の将来にむけて投資するのだ』とヨルグは語ります。
若い選手たちを見守る彼のまなざしは優しく、友人の自殺という辛い時期を乗り越えてきたことを物語っているように感じます。

そして私はこの映画を見てティモがますます好きになりました。
彼がすごしてきた不遇の時代を思い返すと、シャルケではどうか成功してほしいと心から願っています。