プロサッカー選手に有期労働契約は違法か?

元マインツのGKハインツ・ミュラーの訴えをマインツの労働裁判所が認めたことで、ドイツメディアは第二のボスマン判決としてサッカー界に大きな影響を与える可能性があると一斉に報道しています。

水曜日に少しだけこの件についてTwitterでつぶやいたのですが、もう少し詳しく内容をまとめてみました。

ミュラーは2009年にイングランドのバーンズリーFCからマインツへ移籍。当初3年の契約を結びましたが、2012年にさらに2年契約を延長しました。マインツとの契約は2014年で終了しております。

今回の訴えと判決は、2012年の時点で有期(期限を区切った)契約を結んだことは有期労働契約法違反ではないかということが争点になっています。ただ、もともとはもう少し個人的なクラブと選手の係争が発端のようです。

2013/14シーズン後半、マインツはミュラーに対し、2014年で切れる契約の延長をしないことを告げます。2012年に結んだ契約では、ある一定数の試合に出場しなければ契約は延長されないという特約条項がありました。ミュラーは当時セカンドチームでプレーすることを余儀なくされており、規定試合数に達するための権利を侵害されたと主張、それが今回の訴訟につながっています。

マインツのハイデル・マネージャーは「1年契約延長の特約はあったが(クラブが行使しなかったのは)、彼のパフォーマンスによるものではなく他の理由による。このケースでは裁判は我々の権利を認めているが、彼はこれを有期契約の問題へと向けている」と発言しています。

下記に判決文がありますのでちょっと訳してみました。あまり意訳せずに日本語にしたので、かなりわかりにくいです。
(用語等についてはこちらの論文を参照させていただきました。教えてくださったSiebenendenwegさん、ありがとうございました。リンク先はPDFです。『「ドイツにおけるパートタイム労働並びに有期労働契約をめぐる新動向」(川田知子)』

プロスポーツ:不確実な将来の業績達成は雇用関係の有期を正当化せず

マインツ労働裁判所はプロサッカー選手は労働給付の特性が有期であることを正当化しないという判決を下した。

原告は当初、被告であるブンデスリーガのクラブにプロサッカー選手として有期の3年契約で従事した。双方は2012年夏さらに有期の2年契約を結んだ。原告のクラブはその時点で34歳になる選手と、不確実な将来の業績達成を理由に無期労働契約を締結せず、業界慣習を参照した。

マインツの労働法は無期の雇用関係継続に関する訴訟を支持した。

労働裁判所の見解では、トップスポーツ選手との雇用の期間は有期労働法第14条のみで許可される。客観的な理由のない有期は最長二年を超えているために考慮されない。最後に締結された労働契約も客観的な理由ゆえに有期は許可されない – プロ選手の希望でなければ – 不確実な将来の業績達成はプロスポーツ選手の労働給付の特性が有期であることを正当化しない。

この決定は最終ではない。

日本にも労働契約法というものがあり、有期労働契約の反復更新が通算で5年を超えた場合は無期労働契約に転換できるルールがあります。
ドイツの有期労働契約法では、最長2年を超えてさらに有期契約を結ぶには、第14条で定められた理由以外は認めないとなっているようです。
どのようなケースで期限を区切ることが正当化されるのかは、上記にリンクした川田さんの論文内に判例があがっています。

放送局のプログラムの策定から協働者を一定期間雇用する場合や、舞台関連事業における芸術的コンセプトに相応するよう、労働者(俳優、・ソロ歌手・ダンサー・指揮者など)との労働契約をその都度期限つきで締結する場合である(53)

(53) 判例では、放送の自由(基本法5条1項)や芸術の自由(同条3項)から放送局及び劇場の権利を導き出している.BT-Drucksache 14/4374 S.19.

今回の判決を受けての反応ですが、日本のJリーグにあたるドイツサッカーリーグ(DFL)と、サッカー協会にあたるドイツサッカー連盟(DFB)では受け止め方がだいぶ違っているようです。

ドイツサッカーリーグは判決に対し冷静な態度を取っています。「真摯に受け止めているが、何か行動を取るつもりはない。判決は最終ではないし、全く正反対の決定がされることも過去にはあった」

一方でドイツサッカー連盟で法務を担当するコッホ副会長は「注意深く見守らなければならない。一般的な労働法がサッカーに適用されるのは疑問だ。私たちは40、50人もの選手で膨らんだチームを持つことはできない」とコメントしています。

マインツは控訴する予定と報道されていますので、最終的な判決はまだかなり先になりますが、判決の内容によっては将来のプロサッカー選手の契約のあり方が変わる可能性も秘めているため、今後の展開を注意深く見守りたいと思います。