サッカーは、楽しむものだ

ヤットこと遠藤保仁が本を出すと初めて聞いた時、ちょっと不思議な感じがしました。
しかも内容は自分の半生記らしい。
海外の選手だとバリバリの現役で自叙伝を出す人は少なくないけど、それをヤットが出す。
彼はそれこそ、自分を理解してもらおうとかそういう欲とはかけ離れた、どこか飄々とした人だと思っていたのでかなり意外でした。

日本人選手で一番好きなのが遠藤です。
フリューゲルスの時のプレーはさすがに覚えてないけど、京都、ガンバと彼を追いかけて試合を見に行っていた時期があります。今でも、見られる限りはヤットの出る試合は見るようにしています。
ずっと通して見てきたので、99年ナイジェリア大会から今に至るまでの、かなり激動だった日本サッカーの歴史を、ヤットを軸にして一緒に体感してきたような錯覚さえ感じています。

99年ナイジェリア大会を寝不足になりながら見続け、友人と狂ったようにサッカーを語り合った時のこと。
シドニー五輪では予備登録選手として、2階席に観客として座っていたヤットを見かけ、自分のことのように苦い思いがしたこと。
埼スタで行われたアルゼンチン戦で彼のA代表初キャップに遭遇したときの喜び。
ドルトムントで日本がブラジルに負けた時に、出場できなかったヤットのことを思うと、とにかく悲しくて仕方がなかったこと。

ヤットの歴史でもありながら、私の人生における主要なイベントにもかかわってきているサッカー選手。
私の側から一方向に見ていて、ヤットはそのときどう思っていたのだろうというのは想像でしかなかったのに、この本によっていろいろな疑問に彼の言葉で答えてもらったような気がして、好きなサッカー選手の自伝ってすごく意味のあるものなんだなあと、初めて思いました。

構成サトシュンの名前を見て、一瞬げっ、おセンチなのはいやよと思ったけど、そんなところはまるでない、骨太ないい本です。私は彼に対する思い入れが強いので、つい感情を中心にこれを書いているけど、サッカーをする人にとっても、サッカーを見る人にとっても、技術やメンタルの部分ですごく参考になります。
代表や現在のユースのあり方、ジーコ時代について、かなりずばずばと言っているので、そのあたりも面白い。

彼は『はじめに』で、『サッカーは楽しむものだ』という軸はぶれたことがないと言っています。『サッカーを楽しむためなら俺は、どんな壁も乗り越えていく自信がある』と。

『楽しむ』というと誤解をする人も多いけど、これまで決して順風満帆のサッカー人生を歩んできたわけではないヤットが言うとき、そこには深い意味が込められているのだと思います。あー、私も楽しんでサッカーを見なくては。(ときどきそれを忘れる)