コチとワールドカップトロフィーの話

スレイマン・コチは2013/14シーズンの冬にパダボーンに移籍してきた選手の一人です。
パダボーンに移籍する前はベルリン近郊のポツダムにあるSVバベルスベルク03(ドリッテリーガ/3部)でプレーをしていました。

2011年12月、コチは他のプロサッカー選手仲間らと共にカジノ強盗の容疑で逮捕され、ベルリンの地方裁判所で3年9カ月の求刑を言い渡されます。
彼はこの時点でバベルスベルクからの契約を解除されましたが、自分を見つめなおし、サッカーを続けたいと監房で出来るトレーニングをすべて試しました。刑務所内での模範的な服務態度により刑期は軽減され、まもなく保護観察という形で刑務所外の活動も許されます。
そしてバベルスベルクからはセカンドチャンスとして再度1年の契約を提示され、サッカーにも復帰します。
2012/13シーズン、当時3部だったバベルスベルクでは29試合に出場し2ゴール5アシスト。Kickerでの平均採点は3.4です。
実力が認められ、2014年冬にはパダボーンと2年の契約。シーズン大詰めの31節、フュルトとの大切な試合で先制ゴールをあげたことは忘れられません。

2014/15シーズン、コチはパダボーンの一員として間もなくリーグ最高峰のブンデスリーガでプレーをします。

FIFAワールドカップのスポンサーの一つであるコカコーラが、キャンペーン活動の一つとして、ワールドカップ・トロフィーツアーの物語をいくつかサイトにアップしています。その中の一つが上に書いたコチのエピソードです。

(すでに動画は削除されているのですが)その映像の中で、ワールドカップ・トロフィーの前にたったコチは目の前にあるのは本物だろうかと3度確認したと言っています。

『自分は手にするようなことはないだろうけれども、目の前にするだけで十分でした。マラドーナ、ペレ、世界の偉大な選手たちが掲げたトロフィーの前に立っている。もっとサッカーを頑張ろうという気持ちになりました』

彼は将来にあまり展望が持てないような若者のためにも手本になりたいと考えています。そしてサッカーはピッチをはるかに超えて先へも行けるのだということを見せたいとも。
2014/15シーズンのパダボーンのチャレンジと同時に、コチのブンデスリーガでの活躍を心から応援したいと思います。

ところで、バベルスベルクは以前からちょっと気になっているクラブで、昨日も違うニュースを見ていて、クラブ内にRefugee(難民・亡命者)で形成されたチームを持っていることを知りました。1903年に創設されたクラブは東ドイツ時代にはツヴァイテリーガでプレー、また統一後にも2部に昇格しています。
ドイツは比較的、間違いをおかしたことに対し寛大だという印象がありますが、もしかしたらコチはバベルスベルクでプレーしていたから、よりセカンドチャンスを得やすかったのかもしれないという気もします。(罪をおかした人間とのドイツ人の接し方については、シーラッハの名作『犯罪』が非常にイメージしやすいのでお勧めです)

バベルスベルクのサポはまた、ネオナチや人種差別、ホモフォビアにも反対を表明しています。
こちらはサポグループが作ったクリップですが、淡々とした日常の間に発炎筒での競演や宵闇に潜んでのストリート・ペインティングがはさまれ、思わず見入ってしまいます。ベルリン近郊の町と、バベルスベルクというクラブの雰囲気がなんとなく伝わってくるクリップです。